フレンチ/東京のビストロ

ポアソンルージュ(大井町)

初めて訪れた大井町。冷たい雨の夜にもてなしてくれたのはシンプルで素朴な料理とマダムの暖かなサービスだった。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

外観
手作り感あるエクステリア

ワインリストの先のブルゴーニュ

もう1年以上も前だったか、ある方にこの店のカードをいただいた。「目立たないところにあるけどなかなかいい料理出すのよ」と。それから一年くらい長い時間が経ったが、たまたま溜まりに溜まったショップカードを整理しているときにその真っ赤なカードが手に止まった。

場所は大井町。行ったことがないところだ。品川からすぐとは言え、何か理由がないと行くことがない駅、大井町。そう言えば競馬場があることを思い出す。

冷たい雨が降る夜だったが、その分、ドアを開けた時に感じる空気と店内の暖かさが嬉しかった。テーブル席ではなくカウンターに座った。カウンターの前にはフランスはオーヴェルニュ地方近辺で採れるレンズ豆、クスクスの箱、フルーツや雑貨小物類が並べられているが、雑然さを何故か感じない不思議な風景だ。そしてそれがとても心地よい。

ワイン
居心地のいいカウンターがお薦め
カウンターがお洒落なワインセラーになっているようなレストランが増えているが、ここはもっとベタである。奥行きのあるカウンターにはワインの木箱が据えられ、ジャン・グリヴォーのマグナムやらが並び、普段は飲まないレア&高級ワインと日常的フランス料理の大きなギャップに何か不思議な気分になる。

思えば私も書斎の片隅に、これまで飲んだワインの中で印象に残っているものを飾っていた時期があった。最初に旨いと感じた記念すべきワイン、シャトー・ラトゥール、生まれ年のオー・ブリオン、78年ビンテージのブルゴーニュワインの数々。しかし、もう全部捨ててしまった。何故ならそういったブランド&ヴィンテージワインにかつてほど興味がなくなってしまったからだ。飲んだワインの想い出より誰と飲んだかが重要なのだ。

ポワソンルージュのワインリストを見て気持ちが昂ぶった。ハウスワインのカラフからフルボトルで3000円のカオールのワイン、5000円前後のブルゴーニュワインなど想定されるクラスのワインがそこそこ並ぶ。仕事柄仕入の値段は見えているので、いかに適正に根付けしているかがわかる。ここからでも選びがいがあるのだが、その次のページからがワインワンダーランドの始まりだ。

カウンター
手作り感が暖かいカウンター周り
メオ・カミュゼ、ジョルジュ・ルーミエ、デニ・モルテなどブルゴーニュのトップブランドが同じように魅力的な価格帯で並ぶ。私は注文することも忘れ、リストの一本一本に目を留める。一人ひとりの生産者の顔、そして畑の様子が走馬灯のように蘇り、ワインリストの先はもうブルゴーニュのコートドールだ。こうした日常的なレストランで、このお気軽な価格帯のビストロでここまでのワインが空くのだろうか。マダムに聞くと、あまり空かないらしい。その話を聞いて何かほっとしたのだが、ここに行けば飲めると分かっただけでもちょっと嬉しい。
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