フレンチ/東京のビストロ

【閉店】 コントワー松喜(経堂)

【閉店】 フレンチ界の隠れた重鎮、菅沼豊明シェフのカウンターフレンチ。その「にぎり」は実に繊細でほっとする味わいがあった。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

小田急線は経堂駅

小田急線は経堂駅から農大通りを進んだところに小さなカウンターフレンチがある。地元の人はご存知の方も多いだろう。その料理人は20年も前の1985年、当時から賑やかな学生街である下北沢にル・グラン・コントワーを開店し、実に堅実に日本におけるフレンチを広めてきた重鎮、菅沼豊明氏だ。

コントワー松喜
店内からこぼれる灯りが印象的
菅沼氏は17歳で上京した後、今日のフランス料理の基礎を築き上げた名料理人、関塚喜平氏に師事。24歳で渡仏、パリの「シベルタ」、「ル・デュック」等で修業。当初は寿司職人として渡仏したところが異色だ。魚料理について厳しい修行と研鑽を聞くが、その表れとして繊細な魚料理の評判は高い。

下北沢店は高級感ある内装、経堂駅前店はお気軽系な雰囲気、そしてコントワー松喜はフレンチ懐石と、どれも個性が異なるところが面白い。考えてみると料理人は、最後はビストロ料理や、ビジネスをそう意識せず本当に自分の好きな料理に行き着くのだろうか。

1997年に商店街の奥に開店したコントワー松喜は高いレベルで和とフレンチを組み合わせた料理が特徴だ。店の看板にはフレンチ懐石と書かれてあるが、そう難しく考えることはない。メニューもワインも手書きで気さくなもの。しかしサービスはてきぱきと、そして暖かい。

フレンチ
実に見事な江戸前の握りだ。

寿司を握り始めたシェフ

前菜と魚料理が終るとシェフはカウンターの中で寿司を握り始めた。その一連の動作にはただ見とれるばかりだ。フレンチと寿司の組み合わせなんて普通のレストランでは有り得ない。この小さなカウンターでは菅沼シェフによる、きっとご自身が本当に好きであろう料理がサービスされる。それもすぐ目の前で。軸がぶれていないと言うか、ぶれようがないその素朴な料理は実に旨い。こういう時は明らかに料理からエネルギーをもらっているのでこちらも気分が高揚してくる気がする。

食前酒を楽しんでいると、その先にはオレンジの皮を丁寧に剥くシェフがいる。香りが漂いそれがスパークリングワインの香りと重なるが、それも思惑通りならばなんという自然な演出だろうか。

経堂
シンプルゆえに印象に残るデザート
お任せコースは8000円。前菜数品と魚・肉料理、間に寿司が入りデザートまでの時間は、ほのかなときめき感が混じった心地良い時間だ。超ベテランシェフが創り出す、気持ちのこもった料理のほか、軽妙なトークも楽しいことは言うまでもない。ファンが多いのも頷ける気がする。そのつややかで温厚そうな笑顔の奥の瞳に料理に対する誠実さと真実が感じ取れるのである。

実に自然でゆるやかな時間が流れる居心地のいいレストランだった。
こうした住宅街の中にあるレストランはまだまだ少ない。地元の人や沿線にお住まいの方々に愛されるフレンチが増えてこそ、フランス料理の日常が広がっていく。すでに3店舗を構え、長きにわたり実績を積んできたシェフの今の気持ちが「フレンチをもっと日常的に」という思いがあるのだろうか。そんなことを考えながら、ほろ酔い気分で帰り道を急いだ。

コントワー松喜
東京都世田谷区経堂1-5-10
03-3439-0133
ランチ  12:00~14:00(L.O.14:00)
ディナー 17:00~21:00(L.O.21:00)

地図はこちら

ル・グラン・コントワー下北沢
東京都世田谷区北沢2-15-15末広ビル2階
03-3410-7645

ル・グラン・コントワー経堂店
東京都世田谷区経堂2-3-1 2階
03-3439-9955
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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