フレンチ/東京のビストロ

31年の歴史はさらに進化するか ビストロ・ド・ラ・シテ(西麻布(2ページ目)

名だたるシェフを輩出した歴史的ビストロが大きく舵を取った。その先にはビストロの原点に戻った骨太の料理と自然派ワインのマリアージュがあった。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

歴史は移り行く

ビストロ・ド・ラ・シテ
歴史ある佇まいは西麻布にしっとり溶け込む。
70年代に始まるビストロブームの立役者であった勝又氏はその後箱根に日本で始めてオーヴェルジュを開店。現在も箱根で腕を振るう毎日だ。93年当時ブライダルカメラマンとして初夏のオーミラドーにはよく出掛けたが、厨房で指揮を執る勝又氏とその料理には強い衝撃を受けたことを思い出す。ウエディングの料理でここまで作るのか、と。

さて、勝又氏のあとを引き継いで22年前にオーナーとなったのが関根進氏だ。勝又氏がシテを開店する前に飯倉片町でカフェ・ド・シテを経営していたのだが、その当時からのファンだったと聞く。今でこそ珍しくないが深夜までオーダーを受ける当時のグルメが集う人気店だったようだ。

関根氏からは何度か当時の話を伺ったが、当時のフレンチ裏表話にぐぐぐっと引き込まれ、どれも興味深い話ばかり。当時の街場のフレンチは西麻布だとフィガロ位しかなかったようだ。四方山話は残念ながらここで紹介するには広く、そして深すぎるので、今はまだ暖めておきたい。(現在1964年から現在までのフレンチレストランの歴史について調べているところであり、いつか機会があれば発表したいと思っています。)

西麻布
独特の雰囲気が漂う店内

東京一高いビストロへのこだわり

ビストロ・ド・ラ・シテ。1973年から続く老舗中の老舗レストランだ。専門料理2004年3月号にも紹介されているが、系列店のオー・シザーブル(六本木)と併せて多くの著名な料理人を輩出していると言う意味でも、日本のフレンチを語る中で欠かせないレストランといえるだろう。

私がはじめてシテを訪れたのは今から3年前のジビエのシーズンだ。一歩中に足を踏み入れたその空間はまさにパリのビストロ。床は擦れて、狭い中にぎゅぅっと押し込まれる心地よい窮屈さ。関根氏の落ち着いたサービス。どれも短時間では創ることのできない空気があった。

写真のタイトル
歴史の静謐さすら感じる床
しかし、噂には聞いていたがメニューのどれもが値段が張り、とてもビストロの料金設定とは思えないのだ。さらにワインはグランヴァンを中心にほとんどが1万円以上。逃げ場のないワインリストと格闘した結果、えいやっ!とヴォギエのMusignyをオーダー。シャンボール・ミュジニイの可憐さを遥かに超越した味わいが出てきた頃には、北海道産の野生鹿のロースト。これが素晴らしく記憶に残る料理であったにも関わらず、お会計の時には何故かしっくりこなかったのは価格のバランスの悪さ故なのか。そのせいもあって料理もワインも滅茶苦茶旨いのだが、東京で一番値の張るビストロとして、ややマイナスな記憶に残ることになったのかも知れない。

しかし、そんな老舗レストランが2004年10月から大きく変わった。
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