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ゲスト400が名シェフの美食に酔うその瞬間。 フレンチ三巨匠・食の饗宴(2ページ目)

8月25日夜東京ドームホテルにて井上旭・石鍋裕・鎌田昭男による食の饗宴が催された。日本のフレンチの歴史を語るとき欠かせない名シェフだが、その3人の個性が柔らかにぶつかり、そして溶け込んだ。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

バランスの取れた贅沢感が一皿に凝縮

舞台裏の戦場

厨房に戻ろう。前菜の「鴨肉とフォアグラ蜂蜜のマリネ(井上)、鮑のカルパッチョとキャビア&レモンクリームアイス(鎌田)、汲み上げ湯葉豆乳トリュフゼリーソース(石鍋)。」
あぁ、なんと長い料理の名前だ!と思いきや、「三銃士」という名前で括られている記念の一皿。仕込み時間から時間が経っていたせいかフォアグラは鴨に染み付き、鮑も疲れていたが、それを減点する必要はない。高級素材をただ並べただけでなく、一つ一つの味わいのバランスは完璧に整えられていたのは驚きだ。

厨房の空気は張り詰められるほど張り詰め、時折シェフの大声が出る。緊張が高まったかと思えばシェフの笑い声が一瞬の和みを生む。若い料理人は一心不乱に料理を皿に埋め、大型の配膳機で配りだす直前のフロアまで運び出す。動きに無駄がなく、普段の厳しい鍛錬がそうさせているのか。日本で最も有名な料理人を前にして見習いだろうがマネージャだろうが粗相は許されない。

考え抜かれた料理の数々

ボリュームたっぷりのスープは石鍋シェフの作品
メインダイニングでは王様の壷と題されたチキンコンソメ、牛センバン、地鶏、手羽先、白花豆、松茸のスープと向き合う。豪華に詰め込まれた王様の壷。小さなレストランでは食べ疲れするかもしれないが、こいいうような晩餐会では贅沢感をストレートに感じることが出来て、それなりに納得のいく一皿か。これは料理の名誉鉄人石鍋シェフの作品。

400人のメインダイニングを占めるのはほとんどが40代から60代の元祖グルメな紳士淑女。加えて料理人仲間やその友人達といったところか。司会を勤めるのはグルメ評論家の山本益博氏。いつもながらサービス精神抱負でエネルギッシュ。席を暖めることなく45卓を駆け回る。その間2台の大型スクリーンには魚料理を盛り付ける様子がこまめに届けられている。

見た目にも優しさが伝わる鎌田シェフの作品
魚料理はラングスティーヌと甘鯛のポアレ。バージンオリーブオイルの香りが印象的な料理で、バターやクリームも少なめ。ズッキーニや黒オリーブ、蕪や人参などの野菜とのバランスもぴったりとはまり、当たり前の料理をそれ以上に美味しく感じさせる鎌田シェフの真骨頂がここにある。

巨匠の素顔

そういえば私たちはテレビや雑誌に出ている巨匠の笑っている顔しか見たことがないかもしれない。当然ながら仕事場=戦場は日常とはまったく違う。余程の好奇心があったとしても食べることだけに専念するのであれば、出来れば戦場は見ないほうがいいかもしれない。

特に井上旭シェフの存在感はあきらかにこれまで見てきた料理人のソレとは違う。豪放にして繊細。偉ぶったかと思うと笑顔で擦り寄る。包丁を腹に当て「気合だ!」と叫ぶ。一服し、ワイン(昨夜はシャトー・ダルマイヤックでした)の飲んでいる時には、愛弟子の岡本シェフのことこう語る。「あいつはなぁ、俺の一番弟子なんだ。あんな可愛いやついないぞっ」その表情には子供を思う愛情が篭る。かつて自分が開店し命を吹き込んだ京橋のドゥ・ロアンヌと同じ名前のレストランを任せたその人を見定め、信じる気持ちの広さがダイレクトに伝わる。

注:ドゥ・ロアンヌ(恵比寿)
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