アミューズはトマトのムースとガスパチョ。爽やかな一瞬の味わいが次の皿を待ち遠しくさせる。ソムリエールの女性のちょっとゆっくりとした話し方に和みながら、届けられた前菜は白アスパラとフォアグラの炭火焼かき卵トリュフソース。
甘苦い大ぶりの白アスパラ(白アスパラは大きく太くないと駄目です!)とフォアグラのふにゃりとした食感、それにトリュとかき卵と言う抜群のコンビが口の中どころか体全体を包み込む。そこに世界最高の白ワインが身を寄せる。
ミネストローネ風オマールは個人的にはとっても楽しかった一皿。(玉葱と人参の格子切りが習っている料理学校の通りだったから。)一見オーソドックスに見えるものほど隠しが効かないと言われるが、そのスープはフレンチの奥深さをしっかり伝えてくれる感激の味わいか。
シャラン産鴨のローストとサルミソース、特にソースの完成度は味覚を表現するすべての言葉を使いたい。鴨肉の自然な臭みもソースと共に一体となり、一気に官能的美食の世界のエンディングを迎えることになる。この時間になってやっと落ち着いてきたボンヌ・マールも纏めるのが随分上手なワインだ。
仲田氏だけでなくソムリエールとの会話も楽しい。かつてアピシウスにてデュガ・ピイのワインを頼んだことを覚えていてくださったことには感激。私の以前のガイド記事にもしっかり登場していただいている。モンラシエをテースティングされたときの表情も素敵だったことははっきり書きとめておこう。
ちなみにそのモンラシエはエティエンヌ・ゾゼの94年。食後にまで残していた最後の一口はとてもとても言葉では表現できるものではない。そんな気持ちを仲田氏は、白ワインとはこういうものなんです、とやさしく語りかける。
カウンターで小さな窓から見えたシェフの皿を見つめる視線は厳しい。そうした一瞬でも「出会い」は重要だ。自分で見つけた一瞬の風景がさらに料理を旨くする。
ワインリスト自体にほとばしる個性にも脱帽。高額なワインほどリーズナブルに見えるテクニックに私は安心して騙されたい。いつの日か余裕が出てきたら記念日のロマネコンティはここで、とさえ思う。
玄関からカウンター、ダイニング、トイレにある小物に至るまですべて気品ある銀座の世界が広がる。アピシウスを知る方、料理雑誌関係者、接待族だけにこのレストランを独占させてはいけない。はっきり言おう。真っ当な30代の大人自腹族こそアルバスを訪れるべきだ。
敬意をもって長く付き合いたいレストラン、アルバス。そこにはいるだけで感じる何かがある。そして何かを教えてくれるはずだ。
■アルバス
中央区銀座6-7-6 銀座細野ビル3階
03-3569-3386
夕食 17:30-22:00
夜食 22:00-01:00
日休
ワインによって値段が変わるが余裕をもって出掛けたい。
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※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。