大好きな絵を詰めた小さなアルバムがある。ビニールでできた大きなものではなく、手作りの小さなアルバム。そのリボンを初めて解いて中を開けると、フランスの香りがほんのりと漂い、辺りは優しい風がすーっと吹き抜ける。
楽しい時間の始まりの鐘は、一番最初に足を踏み入れたその瞬間に鳴り出す。マダムやシェフの歓迎の一言は、決してマニュアルではなく、ありふれた日常の言葉ながら、実に温かみを感じる。言葉とそれに込められるもてなしの気持ちは、はるばるやってきたゲストに最高の安らぎをもたらす。
私たちは皆ひとり一人アルバムを持っているに違いない。大きさも形も違うが、中身はそれぞれの過去が綺麗に並べられているはずだ。レストランにもアルバムがある。訪れた人が必ず見るアルバム、それはメニューである。
ル・デッサンの小さなアルバムから選ぶ料理はシェフやマダムのもてなしの気持ちが溢れんばかり。僕達は小さなデッサンを完成させるように、前菜からメイン、デザートと絵の具を広げていく。
ひとつ一つの前菜はアイデアに溢れ、工夫が施され、そしてナイフを入れると素材は絡み合い、口に含むとさらに味わいは加速し、表情は感嘆の極みとなる。決して尖ることのない、選ばれた素材が決してぶつかり合うことがなく、かと言って溶け込み過ぎるわけでもなく、こういうのを調和と言うのだろうか。