この日はゆったりとランチ。
■トマトとバジルの暖かなアミューズに始まり、
■クロマグロのカルパッチョ仕立て、
■山陰は萩港で捕れたスズキのポワレ、
■ビーフソテーとバターが効いたストロガノフソース、といったとてもオーソドックスな料理のコースだ(5000円)。
とりたてて、おおっ!と思う料理ではないのだが、いざ食事となると、これが非常にうまいのなんの。この季節を代表する魚、スズキのポワレ。これほどに身の締まったスズキは久しぶりだ。スズキは淡白な白身魚だけに「鮮度」とその魚自体の「質」、そして「ソース」のどれかが欠けていたとしたら、記憶に残らない皿になってしまう。鮮度とソースは必須だが、ここでは魚自体の高い「質=クオリティ」 を感じた。萩の魚屋がどこかはわからないが、シェフの選球眼のよさが垣間見える気がする。
これはメインの肉料理にしても同じ。ソースはますます食欲をそそるものでなくてはいけない、ということがわかる一皿。もう少しボリュームが欲しいなと感じたこと、でなければサフランライスがあればなあ、と思ったのだが、お替りしたくなるほど料理の旨みは深く、それに飽きがこない。
デザートもパティシエの気持ちが伝わるやさしい味わい。甘さを抑えた、とか見た目も綺麗で、といった言い方よりも食べてみると「やさしさ」を感じるタルトやムースが並ぶ。4種類程度まで取り分けてくれる。
サービスは少し距離を置いているようだ。食事が終わった頃、冒頭に書いた彫刻の話やこのレストランができるまでの話を伺った。ゲストが近づくとそれ以上のものを返してくれるようなサービスのスタイルなのだろうか、これはこれでとても気持ちがよい。
どの皿も気持ちのこもった、一貫した軸がはっきりと読み取れる料理だ。当たり前の素材の中で最高のものを当たり前に料理する。これが「旨さ」として伝わらないわけがない。
そうした食事は間違いなく幸せな時間となって、確実に記憶に残る。
フランス料理の楽しさを広めるためにこのサイトを引き受けて1年半近くになろうとしている。その間に私も随分新しいレストランや料理人に会った。ぎんきょうもフレンチ好きの私たちに、ゆったりとした大人の時間をプレゼントしてくれるだろう。私にとっても貴重なレストランになる予感がした。
■ぎんきょう
●東京都新宿区下落合3-19-2
●Tel 03(3950)9155
●営業時間 11:30~14:00(LO) 18:00~21:00(LO) 水曜定休
ランチ3,000円、5,000円、ディナー6,500円、9,000円。
●サービス料 10%
●席数 40席
●個室 無し
●駐車場 1台
●オーナーシェフ 沖江 展
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