自慢するわけではないのだが、私は東京ディズニーランドというところに1度しか行ったことがない。それもできた翌年。It's a small worldという作られたメルヘンチックなアトラクションの印象だけが残り、それ以降行く機会は一切なく今日まで来てしまった。
しかし、このル・ブルギニオンの席に座って見ると、そのかすかな印象が少しずつ思い出してくるから不思議だ。絶妙な明かり加減はとても落ち着いた居心地のよさを感じる。しかし、ブルゴーニュの田舎レストランをイメージした内装はディテイルを見ると、そこはまるでディズニーランドの中にある小さなレストランのようだ。
原宿のはずれにあったアンフォールで名声を得た菊地シェフが独立し、テレ朝通りに店を構えて数年になる。人気シェフということと小さなレストランゆえ予約が取りづらい。フレンチ好きなら知らない人はいないだろう。
私もこれまでランチ、ディナーと何度も足を運んだが、それなりに素晴らしいレストランだ。サービスも丁寧で誠実味に溢れ、ワインリストも素晴らしい。価格も適正だと思うし、巷の評判も良くなかったという話は聞いたことがない。
しかし、今回半年振りに食事に出掛けたのだが、お任せで頼んだその料理(7000円)に、敢えて苦言を呈したい。一言で語るなら、
「おいしいのだが、こじんまりとまとまった小さな料理」
だと思うのだ。
前菜の「茄子とアボガドのミルフィーユ仕立て」は品よく見えるものの、味わいや輪郭がはっきりしない凡庸な一皿。おいしくなくはないのだが、ボリュームはともかく、小さな料理という印象だ。食べ終わった後に何故か満足感が得られない。温前菜のホタテのグリエは北海道産の上質なホタテの食感・味わいといったら最高レベルのもの。この料理には一同会話がぱたりと止まったほどだ。
アイナメのポワレは特に特徴あるコメントを探せないほど、凡庸さに溢れている。あいなめの下に隠されたラタトゥイユもとてもオーソドックス。でも前菜同様おいしくなくはない。
さあ、メインディッシュはシェフ得意の内臓系料理だ。牛の心臓とトリップをミンチにして豚ばら肉で包んだアンドゥイエという料理。これはうまい。軽く残した血の香りの出し方が絶妙でワインの進みも速くなる。
ま、料理に関するコメントはこのくらいにしておきたいが、菊地シェフはこのような料理を作ることを実は望んでいないような気がしてならないのだ。ブルゴーニュの田舎ビストロにはベンチシートなんかないし、サービスももっと荒っぽい。大皿でどっかーんと前菜を盛って、メインは例えば血のソースに溢れた肉料理といったようなダイナミックなものだ。
女性同士でちょっと晴れの日においしいものを、という時にはもちろん絶好の一軒だろう。
その日も隣の席ではワインスクールで知り合ったであろう女性数名のグループが楽しそうにワインと食事の組み合わせについて語っていた。
料理についてはこうあって欲しいという私の希望を書いたが、この日の私達4人組はシャンパーニュからワインも2本しっかり味わい、最後は食後酒まだいただき、すっかり酔っ払い状態で最後に見送りを受けた客であった。そう、ル・ブルギニオンで過ごした時間はとても楽しかったのだ。
しかし、次回訪れる時は予算など気にせずアラカルトでオーダーし、ガツガツと彼の料理を食べてみたい。
こじんまりとコースを食べるよりはずっとウマイ!と感じられるに違いない。
港区西麻布3-8-103
(5772)6244
11:30-13:30/18:00-21:30
毎月第二火曜と水曜休
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