「料理。これは地上に恵みをもたらす自然に対し、限りない感謝を伝える言語である。」

この言葉は港区三田にあるレストラン、コートドールのシェフ、斉須氏から頂いた言葉です。著書をお店で購入すると直筆で書いてくれます。初めてお会いしたときは、こう言っては大変失礼なのですが、どこにでもいるごく普通の叔父様。TVを賑わす鉄人シェフとはまったく違い「職人」の雰囲気を漂わせる風貌の方でした。

「コートドール」の料理やシェフについての話は著書に十分に書かれてあり、フレンチ好きならぜひ読んでおきたい本。しかし単に料理のことや成功談ばかりではなく、プロとして仕事をするということは一体どういうことなのかということをしっかり教えてくれる非常に参考になる本だと思います。

斉須シェフに初めてお会いしたのは一昨年。とは言っても、満足した客がシェフと会って話をするという食後のよくあるひとコマ。食事のあとサイン入りの本を購入した時に、シェフにお会いしてみたいと松下支配人に伝えたらOKをもらった訳です。
お会計が終わった頃、バーカウンターの向こうにある厨房から、シェフが現れました。
これまでの経験から「いやー、今日はどうもありがとうございました。料理はいかがでした?」というような差障りのないやりとりが行われることが確かに多かった。そりゃそうだ、シェフは客を最後に自分のトークでいい気持にさせることができたなら、店にとっても客にとってもうれしいことではないでしょうか。

しかし斉須シェフは違いました。「はあ、なんでしょうか」という感じです。それも怪訝そうな表情で。

その日いただいた料理は、「牡蠣のクリームスープ」「鮭のソテー」「新潟産青首鴨のローストと血のソース」「苺のスープ」。それはもう絶品で鴨の肉の厚さとジューシーさはすごかった。大好きな鴨はそれこそ随分食べましたがその中でもダントツ。こんなうまい鴨食べたの初めてだ!
(写真がなくてすいません)

そんな感動をシェフに伝えたら「あ、そうですか、それはどうも」とこれまたそっけない。なかなか会話のキャッチボールが進まなかったのですが、ふと背後を見ると厨房のドアがあり、中で若い料理人が一生懸命掃除をしているのが見えました。
「厨房を拝見してよろしいですか?」ここからシェフの表情がとても和やかなものに変りました。「ぜひどうぞ!」と。

「私はね、フロアでお客様とお話をするより、こうして毎日使うキッチンを磨いていたいんですよ。このオーブンはね、ここに来た時から使っているものなんです。古いものでも大事に使うことが大切なんです。どうですか、新品みたいでしょう。下とか裏を触ってみて下さい。ね、きれいでしょ。こうしてみんなで手分けして一生懸命掃除をするんです。」

ステンレスの輝き、綺麗な床、整然と並べられた調理器具。そこは厨房というより創作のスペース。若い料理人達が何度も何度も床を磨いています。私たちはしばしそこに立ちすくみ、動きを追っていました。私は「自分たちが毎日使うものを磨き極める。気持ちを込めた道具から産み出される料理は、フロアの客に運ばれ、感動のひと時を過ごす中心的役割を果たす。それは世の人に大きく貢献していることになる。」と、そんなことを考えながら、「十皿の料理」という本に書かれてあった言葉を思い出しました。

「習慣。それは第二の天性である。」
正解のないこの時代を生き抜くヒントまでいただいた夜でありました。

この記事は昨年のものですが、その後も何度か訪れており、来月には円熟期に入ったコートドールをガイド記事として掲載したいと考えております。

コート・ドール
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東京都港区三田5-2-18 三田ハウス1階
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