フレンチ/フランス料理とは?

料理よりも流れる時間の快適さ 初めてのフランス料理

記憶に残るはじめてのフランス料理体験は家族と親しい方々との思い出に残るものでした。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

もう20年近くも前の話になります。長野県は須坂で僧侶をしている変わり者の叔父が東京に芝居見物に出てくるたびに親戚に声をかけて集まっていたのが「ゴンドラ」というレストラン。赤坂東急ホテルの最上階にあったそのレストランでは叔父の教員時代の教え子がマネージャをしており、その関係で年に数回おいしいものをありつきに親戚が集まっていたのです。

その時は教え子である斎藤マネージャのお勧めで全員コース料理をオーダーすることになりました。メニューを見ながら叔父が「とにかく高い高い!」を連発。確かにオレンジジュース(フレッシュなもの)が当時で1,300円した訳ですから。確かコースは8,000円前後だったかと思います。叔父の住む地方都市から見たら相当なものだったでしょうが、もちろん貧乏学生であった私にとっても驚きです。

さて、メニューは前菜にテリーヌが数種類、コンソメスープ、魚料理は舌平目のムニエル、肉料理は牛ヒレ肉に赤ワインソース、サラダ、デザートというもの。みんな同じものにしなさいと頑固者の叔父が言うので従わざるを得ません。なんかこれって昔の結婚式の料理に似ていません?



食事が進み、魚料理が出てきたところです。その「舌平目のムニエル」、バターと白ワインのソースがかかったボリュームのある料理でしたが、フォークとナイフを入れても骨が邪魔になって思うように身が取れないのです。弟などはすでに舌平目がぐちゃぐちゃに。それを見て斎藤氏が教えてくれたのが「下平目の骨の取り出し方」。まず背に沿ってナイフを入れたあと頭のほうから背骨をすっと抜くのです。いとも簡単にはずれてあとは食べるだけ。

この時はフランス料理って結構めんどうくさいもんだ、なんて思いましたが、斎藤氏の手さばきは、それは見事なものでした。親戚一同はその舌平目のムニエルでお腹が一杯になってしまったのか、メインのステーキは私と弟のところに運ばれ、すべてを平らげる羽目に。まあ当時から大食いではあったようです。

大食いはともかく、お腹の一杯になり加減がゆっくり進み、楽しい時間が経つスローさと同じペースで進む時間。ゆっくりゆっくり話が弾み、料理もゆっくりゆっくり出てくる。その場ではお酒の飲めない叔父に遠慮して、ワインもほとんどが飲まない状態であったにもかかわらず、実にゆっくりとした食事だったのです。記憶に残っているという意味で初めて経験したフランス料理のコースでしたが、料理のおしいさや美しさよりもそのスローな感覚こそが、私のその後のフレンチに関わらず食に対する考えの基本になっています。

最近は上記のようなメニューはなかなか見かけることは少なくなりました。舌平目のムニエルはそれ以降食べた記憶がありませんし、牛ヒレ肉の赤ワインソースもあっても今は羊や鴨を選んでしまいます。当時はワインを飲めなかったのですが、バターソースの舌平目にはちょっと強めの白ワイン、牛ヒレにはボルドーの濃いワインなどと一緒に合わせたいなあなどと今となっては思います。

料理のインパクトというより雰囲気と、流れる時間のゆっくり加減。これがフレンチの一番の醍醐味でしょうか。

帰りがけに取った写真にはご一緒していた、まだ元気だった頃の漫談家、故玉川良一さんが一緒に写っています。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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