ピエール・ガニェール・ア・東京（表参道）(2ページ目)

品数の多さで美食フィールドを広げる５皿のアミューズ。

アミューズは、「一手間を加えたオリーブオイル」、「マッシュルームのサラダ ピクルスのジュ 真鯛の薄切り」、「トウモロコシのクリーム スーズの香り」、「パースニップのシャンティ 大根とイクラ添え」、「日本酒のほろ苦いソルベ 小さな貝類とキャベツ」の５品。

器はすべて別々ですが、これでひとつのメニューです。これが、ガニェール氏のお料理の特徴。品数を多くし、いくつもの味わいを率いることで、目や舌に届ける美食のフィールドを大きく広げているのです。

味覚の交差点がコンパクトにまとめられたシャンティ。

ちなみに「パースニップのシャンティ 大根とイクラ添え」は、日本で言う人参のような西洋野菜・パースニップをピューレ状にし生クリームを加え、それをエスプーマでふわっとさせ、かつら剥きにした大根で巻いたもの。上には透き通るようなオレンジのイクラが、こんもり盛られています。

ちょっと崩すのが忍びないですが、この中には、崩してこそ生まれるふんわりとシャッキリの味覚の交差点が、コンパクトにまとめられているのです。そして喉元を過ぎる頃、かすかに感じるパースニップ独特の苦味が、後味をきりっと引きしめます。

また、「マッシュルームのサラダ ピクルスのジュ 真鯛の薄切り」は、マッシュルームのピクルスをトマト風味に仕上げ、器の壁にペタっと真鯛のマリネを貼り付けたもの。

細切りにした生のマッシュルームの軽い歯ざわりが、トマトの酸味と甘味が出会うゆるやかなジュースの中に、とてもいいアクセントで残ります。

スプーンの上で食材同士のリレーが生み出す味のまとまり。

「手間を加えたオリーブオイル」は、イカと黒オリーブ、ケッパー、万能ネギをオリーブオイルで和え、パプリカを仕込んだトーストを添えたもの。

小さなスプーンでいただくと、トイボックスのように、いろんな味わいがかわるがわるやってきます。でもそれは決して忙しいわけではなく、食材同士が次々上手にバトンタッチし合っている感じ。受け渡しがスムーズなので、つまづくことなく口の中でひとつにまとまっていきます。

かのピカソが愛飲したリキュール仕立てのクリーム。

また、「トウモロコシのクリーム スーズの香り」は、かのピカソが愛飲したと言われるスーズのムースの上に、さらっと仕上げた甘いトウモロコシのクリームを流したもの。

スーズとは、リンドウの根から作られたフランス原産のリキュール。一緒に口に入れると、トウモロコシの甘さに少しだけさざ波を立てるように、やさし目の薬草香が舞い降ります。

そして、クリームの中に白いマイクロトマトのように何粒か浮かべられたヤギのチーズが、鼻に抜ける独特の臭みを連れて、存在感を現します。私はヤギのチーズが苦手なので、あまり口の中に居座らせないよう早めに飲み込みましたが、お好きな方は味わいに新たなエッジが加わり、より楽しめることでしょう。ひと粒でも口の中の味がわっと変わるほどインパクトがあります。

貝類の上で日本酒が鮮烈な印象を残すソルベ。

「日本酒のほろ苦いソルベ 小さな貝類とキャベツ」は、赤貝とつぶ貝と細切りキャベツの上に、アンディーブのピューレで味付けした日本酒とビールのソルベをのせたもの。これは、かなり日本酒が効いています。ゆるやかに溶けてゆくに従い、ほろほろとした気分にさせられました。

次ページでは、４皿から構成される文句なしのスペシャリテ「野菜のコンポジション」をご紹介します！

【INDEX】
２ページ目：アミューズ
３ページ目：前菜「野菜のコンポジション」
４ページ目：メイン・ジビエ「蝦夷鹿」
５ページ目：デザート「柚子とフランボワーズ」