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映画『ピンポン』の試写を見て(5ページ目)

卓球を題材にした松本大洋さんの原作『ピンポン』が、この夏、映画として公開されます。ひと足早く、その試写を見てきました。

執筆者:壁谷 卓

映画の中で、ひとつだけ腑に落ちないところがありました。「卓球に人生を賭けるなんて気味が悪い」とまで口にしていた月本が、あっさりと小泉のマンツーマンの指導を受け入れるようになったことです。

小泉との「賭け」に負けたというのが表向きの理由ではあるのですが、卓球を人生の、少なくとも高校時代の最優先事項とは位置づけていない月本のキャラクターからして、不自然な印象が残ったのです。

原作を読んで納得しました。「バタフライジョーの悲劇」が早い段階から登場するのですね。

顧問の小泉はかつて日本の新星と騒がれた選手でしたが、ヒザに重傷を負った幼なじみとの勝負で「手心」を加え、引退したという過去を背負っています。小泉は、幼なじみの星野との対戦で甘さを見せる月本に「かつての自分」を見いだし、深く介入してゆくことになり、一方の月本も、小泉の過去を知り、ついてゆくのです。

ところが映画では、バタフライジョーの悲劇が明かされるのは物語の後半であるため、月本が「転向」する道すじがぼんやりとしてしまったのです。しかし、私のような素人でもそう感じるぐらいですから、おそらく脚本家、もしくは監督の意図的な改変でしょう。

映画は大筋で原作を尊重して仕立てられているものの、「化学反応」の側面を色濃く打ち出しており、時に説明のないまま走らせ、時に暗示するだけで終わってしまうのです。

たとえば、物語がクライマックスに差しかかる終盤、試合前に必ずトイレにこもる風間に、高校を退学した佐久間が話しかける場面があります。

「皮肉なものですね……風間さんがこうして、試合前便所に立て篭る理由……卓球から足洗った今、ようやく分かる感じです……」
「笑うか?」
「風間さん 誰のために卓球やってます?」
「無論、自分のため……」
「冗談言わないでください。今のが本音なら、俺だって何も……」
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