実をいえば、映画『ピンポン』の試写に招待されたとき、私は迷ってしまいました。
声をかけてもらったこと自体は光栄に思いましたし、試写室という「専門家の空間」に好奇心がそそられなかったわけでもありません。曲がりなりにも「卓球ガイド」の看板を掲げている責任のようなものもちらつきました。それでも見に行くべきかどうか迷ってしまったのです。
映画館という空間で映画を見ることがあまり好きではないことに加え、話題作をこまめにチェックしてビデオを借りたり、録画したりするという器用さも持ち合わせておりません。それゆえ映画との付き合いは、たまたま暇なときに、たまたま興味をそそられる作品が、たまたまテレビで放映されたときに限られるという、織姫と彦星並みの逢瀬にすぎなかったのです。
そんな映画素人が、卓球を題材にしているという理由のみで試写を見たところで、何が書けるというわけでもありません。困ったことには、身銭をはたいたところで千ウン百円の映画をタダにしてもらったぐらいで「絶賛記事」を書けるほど世渡り上手でもないときています。だからといって、「仕事」として招待される以上、何も書かないというわけにもいきません。
それなら、なぜ断らなかったのか。お誘いがかかるほんの少し前、たまたまあるエッセイを目にしていたからなのです。
話が突如としてそれますが、真保裕一さんという作家をご存知でしょうか? 『連鎖』で江戸川乱歩賞を受賞してデビューして以来、『ホワイトアウト』(吉川英治文学新人賞)、『奪取』(山本周五郎賞、日本推理作家協会賞)などのエンターテインメント系の秀作を次々と世に送り出してきた人気作家です(真保裕一ファンサイト)。
その真保さん、小説家になる前はアニメーション制作会社で映像制作の仕事に携わっておられたそうで、そのころの経験を綴った作品が、エッセイ集『夢の工房』に収められています。その中の一編「自作の映像化について」に、こんなくだりがあります。