ペイン・スチュアート、その印象深い一生
99年全米オープンの舞台になったパインハーストには、クラブハウスに一番近い木に、ペイン・スチュアートの印象的なガッツボースのブロンズ像が飾られている |
ペイン・スチュアートは、前年1998年にもリー・ジャンセンと壮絶な優勝争いの末に敗れています。90年代半ばに深刻なスランプに陥っていた彼は、91年にも優勝し相性のいいこの大会で復活の兆しをつかんでいました。
ライバルのフィル・ミケルソンは、今日、明日にも第一子が生まれそうな状況。家族を愛するミケルソンは、優勝争いのさなかでも子供が生まれたら、試合を中断して駆けつけると発言し物議を醸していました。
そうした背景の中、全米オープンという最高の舞台で優勝スコアが1アンダーという過酷なセッティングの中、ペイン・スチュアートは、長いパットを誰よりも入れまくり、優勝したのです。
特に最終18番ホールの優勝を決めたパットは、距離にして4~5メートルありましたが、それまでのパットと同じようによどみなく打たれ、吸い込まれるようにスコンと真ん中から入りました。優勝直後の渾身のガッツポーズは、ゴルフ史に残る最高のシーンの一つでしょう。
そして、敗北したミケルソンの顔を両手で抱え、「良い子が生まれるように祈っているよ」と激励しました。最後までしのぎを削った極限の戦いの直後に、ライバルにそんな言葉をかけられることに多くの人が驚き、感動。ミケルソンの長女は、その翌日に生まれています。
ペイン・スチュアートは、この優勝で完全に一流プレーヤーとしての地位を復活。誰もがますますの活躍を疑わなかったのですが、同年10月に最終戦に向かう自家用ジェットの墜落事故によって42歳の若さで急逝しました。
トレードマークのニッカーボッカースタイル、ボビー・ジョーンズを髣髴とさせるゆったりとしたスイング、タフなコンディションになるほど実力を発揮する精神力の強さ、そして衝撃的な最後……。これほど印象的で、魅力的だったプロゴルファーが過去にどれだけいたでしょうか? 彼の流星のような生涯は、今も多くのゴルファーの胸に確かな輝きを残しています。