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大岡昇平『アマチュアゴルフ』を読む(3ページ目)

『俘虜記』『レイテ戦記』などの大作で知られる作家、大岡昇平は熱狂的ゴルファーでもありました。その大岡昇平がハンディキャップ22でありながら世に問うたゴルフレッスン本『アマチュアゴルフ』を紹介します。

児山 和弘

執筆者:児山 和弘

ゴルフガイド

さながらゴルフの民間療法

さながら民間療法のような経験に基づくテクニックが紹介されており、「?」というところもあります。往年の名手トミー・アーマーのインパクトの瞬間、「右手でボールから悪魔を叩き出せ」という言葉に影響を受けたものと思われる「手首を力いっぱい球にぶつけていく」という言葉などはその典型。

大岡自身が使っているというパッティングの際、「ほとんどテークパック(ママ)しないで、球を後ろからこすりあげて、ホールの方に転がしてやる」という不可解なテクニックも紹介されています。

バンカー脱出のため、現代の主流となっているフェースをオープンにしてヒールから打ち込んでいくテクニックも最近の外国選手の打ち方として紹介しながら、「フェースをかぶせて、打ち込む」方法を支持していたりします。

『アマチュアゴルフ』は第十二章までゴルフの多岐にわたる局面において大岡の考えが述べられていますが、より成功率の高いと考えられる方法を読者に薦めながらも、最終的にはいつも自らのプレーへの自戒につながるような内容になっているのも、著者の誠実さを示すこの本の特徴です。ゴルフの奥深いところと言えるかもしれません。

第九章のはじめには、「われわれヘボには、どうせ最良のショットはできっこはないんだから、70点ぐらいのところで満足すべきである」とさえ書いてあります。

文豪、島崎藤村は「ああ、自分のようなものでも、どうかして生きたい」(『春』)という有名な言葉を残していますが、そのひそみに倣えば、「ああ、自分の様なアベレージゴルファーでも どうかしてよいスコアでまわりたい」という嘆きを感じるような本です。他のレッスン本ともゴルフに関する随筆とも異なる独特の内容と言えるでしょう。

>>次は、歴史的資料として>>
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