全8試合が終わったとき、初めて明白になった事が一つあった。
それは、この大会の主人公が、その日リングの上で戦った誰でもないという事実だった。
8月8日のUFO Legendはそういう大会であった。
当初、言われていた小川でもなければ、寝技東西頂点対決を制したミノタウロ(アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ)でもない。リングの上に勝者はいたが、王者はいなかった。その地位を横からかっさらっていったのは、リングサイドで腕組みをして沈黙を守ったヒクソン・グレイシーだったからである。
■UFO Legendはなぜ開催されたのか?
テレビ放映が始まるまでUFO Legendが開催された真の目的を知る人はほとんどなかったにちがいない。あまりに唐突な大会開催の発表、そして主催者とメインイベンターの不可解な反目劇、強引なまでの強行突破で寄せ集められたトップ選手、そして方向性の定まらないマッチメイク。一体この大会は何を目指すのか、誰にも解らなかったと言ってもいい。
たしかに日本テレビの提示したゴールデンタイム枠二時間の放映権料は億単位といわれ、格闘技興行を行うプロモーションにとってはだれしもが夢見るような好条件であった。しかし、逆にそうした大口のしっかりしたスポンサーを掴んだにしては、UFO Legendの動きは性急に過ぎたといっていいだろう。事実、短兵急に動いたがゆえに、Dynamaite開催を控えたKー1&DSE連合軍との間にブラジリアントップチームを挟んでの、本来なら発生させなくてもいい軋轢を生んだ。DSE側は現役のヘビー級チャンピオンノゲイラのUFO Legendを問題にしたというより、イベントの開催自体を急ぎ、断りもなしに選手を強引にブッキングしたと言う、手続きの順番違いを問題視していたという。
日本の格闘技市場を悪く言えば出稼ぎの場と捕らえている外国人選手は多い。言ってみれば彼等はオファーの内容によって、どこのリングにでもあがると言い換えてもいい。事実そうしたオファーの条件戦争で、持久戦を仕掛け他団体のトップクラス選手を自分たちのリングに登場させてきたのはDSE自体なのである。したがって、逆にどんな引き抜きを仕掛けられても、同じロジックが貫かれている限りDSEには動じる理由が無い。もし抜かれても、抜きかえせばいい。今やファンの絶大な支持をうけるDSEでありPRIDEブランドである。正面突破には正面突破でかえせばいいだけの話なのだ。しかし、そのDSEがあえてトップである森下社長を表に立て、UFO Legend開催へ大きな懸念を示したことにこそ、大きな意味があったと言う事を我々は早く気が付くべきだったのである。
最大のヒントは、目の前に無造作にほうり出してあったこの一言だ。
6月27日の第一回の記者会見の時、UFO Legendのトッププロデューサーである川村龍夫社長が口にしたこの台詞を思い出してみてほしい。
「小川の強い要望で全試合ガチンコで行く事になりました」
数々の物議を醸したこの発言だが、今考えてみるとこの言葉に込められた真意こそが、この大会の全てを言い表わしていた事が解る。
本来格闘技興行を名乗る場合、前提は試合結果の定められていないNO FIXの試合が基本である。またこれが仮にプロレス興行であれば、それは逆になおの事FIXEDマッチで有る無しを語ってはならないはずではないか。要するに格闘技の大会ですとアナウンスしたはずの大会で、あえて全ガチであると語る事は、その内容が実際はどちらになったとしても不必要な説明なのである。
しかし、我々はこんな大きなヒントを見のがしたのである。
第一の誤解の原因は川村社長が格闘技興行に関してまだキャリアが無いという表面的な事実から、これは格闘技=NO FIXという前提を踏まえずしてなされた発言だろうと思い込んだことにある。第二の誤解の原因は、彼の擁するUFO/猪木事務所所属選手が全員プロレスラーを職業と名乗る集団であるがゆえに、FIXEDマッチを基本とする通常のプロレスとの差別化を図ったのだろうと、この言葉の意味を軽く受け止めてしまったことにある。
だが、この言葉にはまったく別の意味が、いや本来そのアナウンスを受けるべき対象が違うと言い直すべきか、要するにこのコメントは、ファンに向けて、あるいはマスコミに向けてなされたものではなく、たった一人の対象者に向けてのメッセージに過ぎなかったのである。そう、今回のUFO Legend東京ドーム大会は、極端な事を言えばたった一人の観客さえ納得すれば、その役割を果たしたと言える大会だったのである。
ここまで言えば答えはわかるだろう。
そう、今回の大会は世界でたったひとり、ヒクソン・グレイシーという男に対してのみ意味を持つようにセッティングされた、川村社長からのラブレターだったのである。