■小川と川村社長の思惑の交錯

UFO Legendの開催のキャッチフレーズは「小川動く」であったが、当の小川はなかなか動こうとはしなかったことは、前回のコラムでもお届けした通りである。実際、小川は各種メディアのインタビュウでも、川村社長の「小川の希望でガチンコ」という発言を否定し続けている。普通、団体のプロデューサーとメインイベンターがここまで食い違った主張を見せる事は珍しい。ともあれリングに上がって戦うのは選手である。リングの上の試合については、選手が思い描くものが全てだ。では、川村社長の発言は、苦し紛れの責任転嫁にすぎないのだろうか?

だが、この問題も、今大会がヒクソン参戦をにらんだプロモーションでしかなかったと考えれば、平仄がぴたりとあてはまるのである。

小川はプロレスラー転業以降、リアルファイトの格闘技戦というものに一貫して否定的な見解を表明してしてきたことで有名だ。いわく「プロの試合はファンに感動を与えるべきであって、目先の勝ち負けにこだわった試合はアマチュアのものにすぎない」いわく「俺のやりたいのは格闘芸術であって、つまらない真剣勝負では無い」いわく「俺の仕事はプロレスラー。戦う試合は全てプロレスであり、戦いだ」

これらは、ある種禅問答的なニュアンスを含んだ発言である。ストレートに受け取ってしまえば一切のリアルファイト否定/FIXEDファイト専任宣言に聞こえなくはない。しかし、僕はこれは小川一流の韜晦を込めた直球発言と受け取っていいと思う。

小川の発言に、プロフェッショナルファイターの職業的プライドをきちんと折り込んで翻訳すればこうなる。「バリューのある面白い舞台であれば、FIX/NO FIX関係なく俺は格闘芸術の名に値する試合をクリエイトできる」と。さらに言うなら、「ヒクソンという格闘技界最大の獲物を前にぶら下げられて、引き下がるほど俺(小川)のプロ意識はチンケじゃないよ」ということなのである。

一方、大会プロデューサーとしての川村社長の仕事は、その対戦を実現させることにある。
ヒクソンが小川との対戦を飲む条件は、先にも述べた通りリアルファイトのリングである事が第一である。であるなら、それを準備する事で“小川の希望”は果たされる。すなわち「小川の強い要望で全試合ガチンコ」という言葉の真意は、ヒクソンという存在を物差に当てれば一瞬で氷解する。“ヒクソンとの対戦=ガチンコマッチ=小川の強い要望”という三段論法だったのである。

ただし、川村社長も、小川も、放送当日までヒクソンという存在を表に出せなかったゆえに、一見イコールで結びつきにくい二つの要素だけが残されてしまったのである。小川は小川なりに、川村社長は川村社長なりにそれぞれの言葉で真実を語っていたに過ぎない。まして川村社長にすれば、ヒクソンも小川も王将クラスの手ごまである。その直接対決を仕掛けるとなれば、否応無し慎重にならざるを得なかったのであろう。

だが、それでも大きな謎は残る。
ヒクソンというカードの存在を隠しておく必要はどこにあったのだろう? これだけの興行になれば、ヒクソンクラスのゲストの名前を出すのも、一つの客寄せ材料になるはずである。逆に早い段階でヒクソンの名前を出しておけば、将来の話など一つもしなくても、ファンが勝手に小川との対戦を睨んだ大会になる事を想像してくれるはずだ。にもかかわらず、彼の存在が大会直前まで隠ぺいされなければならなかった理由は何だったのだろう。