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実験小説とショートショートを収めたバラエティ豊かな短編集。凝縮されたアイデアと表現力には一読の価値ありだ。 |
奇想小説の愛好家である浅暮三文は、日本推理作家協会賞の授賞式で「バーセルミやスラデックのような小説を書いていきたい」と発言している。ドナルド・バーセルミはアメリカのポストモダン作家、ジョン・スラデックはアメリカのSF作家だが、いずれも奇想天外な――往々にしてナンセンスな――物語の書き手として知られている。そんな"奇想作家宣言"を実行に移すべく、浅暮は様々な実験作を発表してきたが、その成果を束ねた最初の短編集が
『実験小説「ぬ」』である。交通標識に注釈を付すことでストーリーを構築した「帽子の男」、ページの上段と下段でストーリーが併走する「カヴス・カヴス」、ゲームブック的な構成を持つ「お薬師様」など、本書には小説のスタイルを破壊するような傑作群が収められている。ここで強調しておきたいのは、これらが"実験のための実験"に堕すことなく――内容に即した語り口を駆使しつつ――ユーモラスな物語として書かれていることだ。浅暮にとっての実験とは面白さの源泉なのである。
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奇想天外なアイデアと表現を駆使した"実験小説集"第2弾。計算された構成と細部まで行き届いたジョークにも要注目だ。 |
2008年の暮れに刊行された
『ぽんこつ喜劇』は"実験小説集"の第2弾。売れない作家のアサグレが編集部に送ったアイデア集――という体裁の「プロローグ」で幕を開ける本書には、2006年から2008年にかけて『小説宝石』に掲載された12編が収められている。簡単な線画とともに男の後半生を描く「ミスター・サムワン」、多種多様な性格を持つ野菜たちのスケッチ「八宝菜は語る」――あるいは占いコーナーのパロディやタイポグラフィなど、導入されたアイデアの質と量はまぎれもなく絶賛に値する。とりわけユーモアとペーソスを兼ね備えたハンガー開発者の伝記「或る発明史」は必読モノだろう。奇抜さゆえに万人向けとは言えないものの、センスの合う読者にはワンアンドオンリーな名著に感じられるはず。その点からも試食をお薦めしたい1冊なのである。
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GURE GROOVE…浅暮三文公式サイトです。