750人の全裸ラブシーンが話題になったあの映画の原作と稀代の悪女ミステリー。東西のエロティックで美しい小説をご紹介します。豪華絢爛な物語の世界に耽溺してストレスを忘れましょう!

香りの天才がたどる数奇な運命パトリック・ジュースキント『香水―ある人殺しの物語』

香水―ある人殺しの物語
公開中の映画「パフューム ある人殺しの物語」の原作。約750人の全裸ラブシーン(!)が話題に。
まずヨーロッパ代表は映画も話題の『香水―ある人殺しの物語』

舞台は18世紀のフランス。「花の都」というより「悪臭の都」だったパリの魚屋の店先で、ひとりの男が生を受けました。彼の名はジャン=バティスト・グルヌイユ。母親から捨て殺されそうになったところを幸運にも生き延びた赤ん坊は、なぜか拾われた先でも恐れられ、疎まれます。成長しても事態は変わりません。どこに行っても無視されるか、さもなくば奴隷のようにこき使われるか。ただ、グルヌイユにはある才能がありました。

どんな音でも聞いただけでたちどころに音符に置き換えることができる能力のことを「絶対音感」といいますが、グルヌイユの能力はさしずめ「絶対嗅覚」とでも申しましょうか。香水を嗅げば簡単にその成分を見破る。匂いだけでどこに何があるかわかる。普通の人間には嗅ぎとれない微かな匂いも検知可能。そんな彼がある少女の香りに魅了されたのがきっかけで、異様な殺人事件が起こります。

何といっても読みどころは、鼻が曲がりそうな悪臭から、うっとりするような芳香まで、細かく書き分けられた匂いの描写。特にグルヌイユが作った香水は、読めば嗅いでみたくなります。なぜなら、嗅いだ人々の感情を思いのままに動かせる魔法のような香りなのですから。

また、本書はさまざまな読み心地が楽しめる一冊です。超人的な嗅覚を持ちながら、自分自身の匂いは持たないグルヌイユの孤独。香りがもたらす官能。香りに翻弄される人間の滑稽さ。そして仰天の結末。物語が進んでいくうちに、喚起される感情が微妙に変わってゆくのです。優れた香水が、トップノートからラストノートまで複雑な香りの変化を見せるように。

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