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ミステリー作家としてのロード・ダンセイニ

江戸川乱歩が絶賛した「二壜の調味料」を含む、ロード・ダンセイニの"幻のミステリー作品集"が完訳されました。

執筆者:福井 健太

稀代のファンタジー作家
ロード・ダンセイニ

『世界の涯の物語』
ダンセイニの〈幻想短編集成〉シリーズ第1弾。2冊の初期作品集(全33編)を完全収録した豪華な1冊である。
ダブリン郊外の城主の跡継ぎとして1878年に生まれたロード・ダンセイニ(ダンセイニ男爵の意。本名はエドワード・ジョン・モアトン・ドラックス・プランケット)は、イギリスの海軍提督や著名な文学者を先祖に持つ名門貴族にして、戦争で活躍した射撃の達人にして、世界チャンピオンと引き分けるほどのチェスの名手でもあった。そんなダンセイニは「ペガーナの神々」に代表される幻想的な短編群、『影の谷物語』などのファンタジー長編、アイルランドを舞台にした物語、ホラ話を綴った〈ジョーキンズ〉シリーズなどの小説に加え、戯曲、詩集、評論などを精力的に手掛けている。H・P・ラヴクラフト、アーシュラ・K・ル=グウィン、レイ・ブラッドベリ、アーサー・C・クラーク、稲垣足穂などに多大な影響を与えたことからも、文学史におけるその重要性は明らかと言えるだろう。

"20世紀最大のファンタジー作家"と称されるダンセイニは――とりわけ日本では――江戸川乱歩が絶賛した「二壜の調味料」の著者としても知られている。ミステリーファンには(むしろ)この短編でダンセイニを知った人も多いはずだ。乱歩が評論集『幻影城』で"奇妙な味"の佳品と論じ、後に「二壜のソース」として『世界短編傑作集3』に収めた本作では、ある怪事件の顛末が描かれている。同棲していた女が消えたにも関わらず、怪しげな男スティーガーは別荘に籠もって薪を作り続けていた。スティーガーに調味料を売ったセールスマンの「わたくし」ことスメザーズは、同居人の紳士リンリーに謎解きを持ちかけるのだが……。巧みな語り口、謎めいたムード、衝撃的な幕切れなどを備えた短編ミステリーの古典的名作である。

次のページでは短編集『二壜の調味料』を御紹介します。
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