戦後の復興期にセミプロとして活躍した探偵作家は少なくない。彼らは専門誌や同人誌にディープな探偵小説を発表したが、その多くは単行本化されることなく、歴史の奧へと追いやられていった。しかし21世紀の現在、熱心なマニアの要望を受け、優れた作家・作品が続々と発掘されつつある。そんな「幻の探偵作家」の筆頭格・天城一が亡くなったのは、つい先日――2007年11月9日のことだった。その功績を讃えるとともに、略歴と著作を概観することにしよう。

天城一(本名・中村正弘)は1919年東京生まれ。東北帝国大学理学部数学科卒。大阪教育大学の名誉教授にして探偵作家というユニークな人物だ。1947年に「不思議な国の犯罪」(後に「不思議の国の犯罪」と改題)でデビューし、哲学科助手・摩耶正を探偵役にした不可能犯罪モノ――「鬼面の犯罪」「高天原の犯罪」「明日のための犯罪」「ポツダム犯罪」などで人気を獲得。1955年に初長編『圷家殺人事件』を完成させた後、長い休筆期間を経て、退官後の1975年に「急行《さんべ》」で創作を再開した。作品数は極めて少ないものの、学者らしい分析的な視点には定評があり、2005年には『天城一の密室犯罪学教程』で第5回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)を受賞している。

密室研究の第一人者

『天城一の密室犯罪学教程』
著者の記念すべき初単行本。多彩な密室トリックのエッセンスを抽出し、実作を通じてその分類を論じた「密室の教科書」である。
デビューから半世紀以上を経て、2004年に(ようやく!)刊行された初の著書が『天城一の密室犯罪学教程』である。本書は「密室犯罪学教程 実践編」「密室犯罪学教程 理論編」「毒草/摩耶の場合」の3部構成。様々な密室を分類した著者は「実践編」でその小説化を試み、続く「理論編」において――自作をサンプルとして――「抜け穴密室」「機械密室」「事故自殺密室」「内出血密室」「時間差密室」「逆密室」「超純密室」などを論じている。この「実作を使った評論」というスタイルが評価されたからこそ、本書は本格ミステリ大賞の(小説部門ではなく)評論・研究部門に選ばれたわけだ。刺激的な評論であると同時に、不可能犯罪テーマの短編集としても楽しめる好著なのである。

次のページでも天城作品を御紹介します。