ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

浅暮三文の実験小説集

多彩な作風を使い分ける個性派作家・浅暮三文。その"実験小説"作品集はウィットに富んだ極めてユニークなものです。

執筆者:福井 健太

稀代の奇想作家・浅暮三文

『石の中の蜘蛛』
聴覚の発達した男・立花誠一は、その能力を活かして失踪した女の行方を探っていく。第56回日本推理作家協会賞受賞作。
物語そのもの――それも"奇妙な物語"を愛する作家にとって、ミステリーやSFといったカテゴリーは付随物に過ぎない。奇抜な着想をテキストに置き換えることは、原初的な"語り"の欲求に身を委ねることでもある。浅暮三文はそんな自由なクリエイターの1人と言えるだろう。1959年に兵庫県で生まれた浅暮は、関西大学経済学部を卒業後、コピーライターとして多くの広告賞を獲得している。1998年に『ダブ(エ)ストン街道』で第8回メフィスト賞を受賞し、ミステリー、ファンタジー、青春小説などを次々に発表。2002年には『石の中の蜘蛛』が第56回日本推理作家協会賞に選ばれた。実験小説、異能SF、自伝、釣りエッセイなども手掛けており、その技量とマルチぶりを支持する熱心なファンも少なくない。

浅暮の作風は多岐に渡っているが、代表作には〈五感〉シリーズを挙げるのが一般的だろう。このシリーズでは人間の五感がモチーフになっており、『カニスの血を嗣ぐ』では嗅覚、『左眼を忘れた男』では視覚、『石の中の蜘蛛』では聴覚、『針』では触覚、『錆びたブルー』では"第六感"が精緻に表現されている。題材に応じて舞台や登場人物を変えていることは、浅暮の小説観――あるいは優先順位の反映にほかならない。特定のスタイルに縛られないからこそ、そこではモチーフが最大限に活かされるわけだ。まだ味覚にまつわる物語は上梓されていないが、これがアベレージの高いシリーズとして完成することは間違いないだろう。

次のページでは『実験小説「ぬ」』『ぽんこつ喜劇』を御紹介します。
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