ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

樋口有介の優しい世界

詩情を湛えたハードボイルドと青春小説の名手・樋口有介――その苦い郷愁に彩られた作品世界に御案内します。

執筆者:福井 健太

樋口有介のプロフィール

『ぼくと、ぼくらの夏』
刑事の息子である高校生・戸川春は、同級生の不審な「自殺」の真相を探ることにした。ひと夏の体験を描く青春ミステリーの秀作。
ミステリーが真実を追う物語である以上、そこには必然的にドラマが生じることになる。真実を知ることの痛みと悟りを通じて、ミステリーは人間の変化や成長を描くことができる。つまりミステリーと青春小説は相性が良いわけだ。いわゆる「青春ミステリー」は無数に書かれているが、樋口有介がその第一人者であることは間違いない。旧作が続々と文庫化されている今こそ、著者の魅力を(再)発見する絶好のチャンスなのである。

略歴をざっと記しておこう。樋口有介は1950年群馬県生まれ。国学院大学中退。世界各地を放浪した後、劇団員や業界紙記者などの職業を経て、1988年に『ぼくと、ぼくらの夏』で第6回サントリーミステリー大賞(読者賞)を受賞。1990年に『風少女』が第103回直木賞候補、2007年には『ピース』が第60回日本推理作家協会賞の候補に選ばれている。

著者の名を高らしめた
最初期の青春ミステリー

『風少女』
父危篤の報を受けて帰郷した斎木亮は、中学時代に憧れていた川村麗子の「事故死」を告げられる。亮は麗子の妹・千里とともに捜査を始めるのだが……。
記念すべきデビュー作『ぼくと、ぼくらの夏』は、極めて正攻法のほろ苦い青春ミステリーだった。高校生の戸川春は――両親が離婚したため――刑事である父親と二人で暮らしていた。夏休みのある日、春は同級生の岩沢訓子が自殺したと聞かされる。ヤクザの娘である同級生・酒井麻子とともに岩沢家を弔問した春は、親族の話と現場の状況に疑問を抱き、麻子と協力して真相を探ろうとする。青春小説と謎解きを融合させた愛すべき物語だ。

第2作『風少女』の主人公・斎木亮は東京の大学生。父親が危篤になったという知らせを受け、前橋の実家に帰省した亮は、中学時代の同級生にして初恋の相手――川村麗子の妹・千里に意外な話を聞かされる。麗子が薬を飲んで浴室で溺死したというのだ。千里に調査を依頼された亮は、麗子を知る旧友たちに話を聞くことにした。基本的なプロットはデビュー作によく似ているが、若者たちの人生を交錯させた本作のほうが完成度は高い。創元推理文庫版の解説で法月綸太郎が述べているように、これは著者が「自己のスタイルを確立した」「樋口ミステリの「原点」」なのである。

樋口作品の紹介は次のページに続きます。
  • 1
  • 2
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます