サスペンス小説の旗手・雫井脩介
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薬物を使っている選手を突き止めろ――密命を受けた柔道強化チームのコーチが辿り着いた真相とは? サスペンス小説の名手・雫井脩介の記念すべきデビュー作。 |
雫井脩介は1968年愛知県生まれ。専修大学文学部を卒業後、出版社や社会保険労務士事務所に勤務し、2000年に
『栄光一途』で第4回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞。2004年に発表した第5長編
『犯人に告ぐ』は同年度の「週刊文春ミステリーベストテン」で第1位を獲得し、翌年には第7回大藪春彦賞にも選ばれている。ちなみに
『犯人に告ぐ』と(2006年に上梓された)恋愛小説
『クローズド・ノート』はいずれも2007年に映画化された。サスペンス小説を基盤にしながらも、特定のジャンルに縛られない技量を持つ"物語作家"なのである。
著者のデビュー作
『栄光一途』はドーピング問題をモチーフにしている。日本柔道強化チームのメンタルコーチである望月篠子は、柔道界の重鎮から極秘の任務を命じられた。ドーピングをしている五輪候補選手を突き止めろというのだ。望月はやがて意外な事実を知るのだが……。プロットの運びには瑕疵も見られるものの、ヒロインたちの魅力と柔道シーンの迫力は注目に値する。後の作品群における著者の活躍ぶりから考えるに、本作を推した選考委員たちの目は確かだったのである。
異色の捜査を活写した大ヒット作『犯人に告ぐ』
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警察が誘拐犯に語りかける"劇場型捜査"をスリリングに描く長編サスペンス。著者の名を世に知らしめたミリオンセラーだ。 |
現時点での著者の代表作
『犯人に告ぐ』は――前述したように――「週刊文春ミステリーベストテン」の第1位に選出され、第7回大藪春彦賞を獲得している。連続児童誘拐事件が発生し、捜査の糸口を掴めない神奈川県警で奇抜な提案が採用された。テレビを通じて犯人に呼びかけ、その反応によって情報を得ようというのである。かつて児童誘拐事件の捜査に失敗し、マスコミへの対応でも失態を演じて左遷された刑事・巻島史彦は、その"広告塔"としてマスコミを懐柔しようとする。多彩な人々の思惑を綴りつつ、異色の"劇場型捜査"を描ききったサスペンス小説の傑作。映画化(豊川悦司主演)に際して文庫化されたこともあり、総部数は100万部を突破したという桁違いのベストセラーである。
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『犯罪小説家』を御紹介します。