瑞々しいミステリーの書き手として注目を集める俊英・米澤穂信は1978年岐阜県生まれ。2001年に『氷菓』で第5回角川学園小説大賞(ヤングミステリー&ホラー部門)奨励賞を受賞してデビュー。〈古典部シリーズ〉〈小市民シリーズ〉をはじめとして、次々に話題作を発表している若き実力派だ。今回はそんな著者の単行本をざっと紹介していこう。

著者の原点〈古典部シリーズ〉

『氷菓』
姉の命令で古典部に入部した高校生・折木奉太郎は、古い文集に秘められた謎に直面する。北村薫の影響を感じさせる著者のデビュー作。
米澤穂信のデビュー作『氷菓』は「省エネ高校生」折木奉太郎の初登場作でもある。姉に命じられて神谷高校の古典部に加わった折木は、古典部のユニークな面々とともに、身近に発生した謎――いつの間にか密室になった教室、33年前の文集『氷菓』に隠された秘密などに挑んでいく。いわゆる「日常の謎」を扱っているのは、北村薫に対する著者のリスペクトゆえだろう。続編『愚者のエンドロール』では古典部に奇妙な依頼が持ち込まれる。文化祭企画として制作中のミステリー映画の脚本家が倒れたため、物語の結末を推理して欲しいというのだ。そしてシリーズ第3作『クドリャフカの順番』では、文化祭の最中にクラブの備品(占い研究会のカード、囲碁部の碁石……)が盗まれていく。「怪盗十文字」と名乗る犯人の狙いは何か? 文化祭の雑然としたムードを背景に、盗難事件のミッシングリンクを描ききった秀作である。

主人公の成長を綴る〈小市民シリーズ〉

『春期限定いちごタルト事件』
小鳩常悟朗と小佐内ゆきは「小市民の星」を目指す高校生――にも関わらず、皮肉な運命は彼らに探偵役を押しつける。異色の探偵コンビを描く青春ミステリー。
船戸高校に入学した小鳩常悟朗と小佐内ゆき――平穏な小市民を理想とする2人は、連作短編集『春期限定いちごタルト事件』と長編『夏期限定トロピカルパフェ事件』に登場している。著者が対談などで述べているように、この〈小市民〉シリーズは謎解きを通じて主人公の成長を描く試みであり、小鳩の思想は――物語が折り返し点に達した現在――大きな分岐点に直面している。成長譚としても楽しめる重層的なシリーズなのだ。

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