ミステリー小説/ミステリー小説関連情報

真梨幸子の歪んだ物語

エッジの利いた作風で知られる新鋭・真梨幸子。その"歪んだ心理"を描く作品群が注目を集めています。

執筆者:福井 健太

奇病を活写したデビュー作

『孤虫症』
主婦の愛人たちが怪死を遂げていく。濃密な愛憎劇の果てに浮上した真相とは? 第32回メフィスト賞受賞作。
ダークな心理劇を得意とするミステリー作家は少なくないが、彼らの作品に慣れた読者であっても、真梨幸子のデビュー作『孤虫症』には意表を突かれるに違いない。平凡な家庭の主婦・麻美には3人の愛人がいた。麻美が寄生虫を宿している可能性に気付いた矢先、愛人たちが奇病で次々に変死していく。やがて精神を病んだ麻美は失踪し、妹の奈未は義兄とともに母の元へ向かうのだが……。女性同士の確執をベースにしつつ、生理的な"気持ち悪さ"を強調した本作は、特異なサスペンスであると同時にキッチュなホラーでもあった。確かな筆力や容赦のないセンスなど、著者はこの時点で"気持ち悪い話"を書くスキルを獲得していたのである。

真梨幸子は1964年宮崎県生まれ。多摩芸術学園(現在の多摩美術大学)映画科卒。会社勤めを経てテクニカルライターに転じ、2005年に『孤虫症』で第32回メフィスト賞を受賞してデビュー。ペンネームの由来はザ・タイガースのデビュー曲「僕のマリー」だという。『えんじ色心中』『女ともだち』『深く深く、砂に埋めて』『クロク、ヌレ!』など――人間の悪意や欲望を軸として――精力的な創作を続けているが、第6長編『殺人鬼フジコの衝動』はとりわけ印象的な物語と言えそうだ。一家惨殺事件で生き残った10歳の少女が"伝説の殺人鬼・フジコ"に変貌し、死刑に処せられるまでを綴った本作では、ハードなサスペンスとトリッキーな趣向を一度に楽しめる。"殺人者の手記"テーマの秀作なのである。

次のページでは『ふたり狂い』を御紹介します。
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