そろそろ年末のベスト10にランクインしそうな気合の入った作品が続々と出版される季節。量の多さになかなか追いつけないのですが、話題の青春ミステリー2冊をおすすめ!!
世界にひとつだけの花。なんて思えないあなたに。米澤穂信『ボトルネック』
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著者の新境地! 北陸の風景描写もイイ。 |
SMAPの「世界にひとつだけの花」という曲がありますよね。あの歌詞、好きですか? ものすご~く大雑把に要約すると、とびぬけた能力はなくても誰でも生まれながらに特別で価値のある人間なんだという内容。現実はそう見做されていない、でもそう信じたい人が多いからこそ、大ヒットしたのだと思います。ただ、ああいうポジティブなメッセージを美しいメロディにのせて聴かされると、自らの現状とのあまりのギャップに沈み込んでしまう人もいるわけで。ガイドもそうなんですが。
ポジティブな小説は読んでいてまぶしすぎる。そんな人におすすめなのが、米澤穂信の新刊『ボトルネック』。物語は、主人公の嵯峨野リョウが、東尋坊の崖っぷちで兄の訃報を受け取る場面から始まります。リョウの恋した少女はそこから落ちて亡くなったのでした。恋人をなくしただけではなく、実の親にすら存在を認められず、つらい毎日をおくるリョウ。自分の不幸に酔うこともできないので、高校一年生の若さにして絶望しきっています。そして彼は崖で眩暈を起こし、なぜか金沢の川のほとりで目を覚ますのです。
そこは生まれ育ってよく知っている町とほとんど同じ。ところがリョウにとっては大きなちがいが。家に帰ると見知らぬ少女がいたのです。彼女は生まれなかったはずの姉・サキ。サキが存在する代わりに、その世界ではリョウは生まれていない。嵯峨野家の2番目の子が男か女か。前提条件がひとつ異なるだけで、世界はどんなふうに変わるのか。または変わらないのか。リョウはサキと一緒に確かめていきますが……。リョウの世界で起こったある事件の真相が、サキの世界で明らかになるミステリーとしての面白さもさることながら、パラレルワールドの設定を使って現実の残酷さを美化せずに描いたところが読みごたえあり。
自分はナンバーワンどころかオンリーワンでもないという深い諦念。ネガティブな部分も多いけれど、そこに惹かれます。崖の下を覗くと吸い込まれそうになるように。
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