当月と翌月発売のものからそれぞれいくつかピックアップして、小説世界に思わずのめりこんでしまう本をご紹介します。
まずは1月に発売になったものから2冊。
【1月のイチオシ】パワーに圧倒される池上永一『レキオス』
基地に生まれた少女・デニスのルーツ探しと、謎の将校の陰謀が交錯したとき、見たことのない世界が目の前に現れる。一気読み確実の超絶エンターテインメント。サマンサ、最高。 |
舞台は沖縄。基地に生まれた混血の女子高生・デニスは、チルーと名乗る怨霊にとりつかれ、仕方なく彼女の人探しを手伝う。一方、嘉手納基地ではキャラダイン中佐が「プロジェクトL」と呼ばれる作戦を進行していて……というストーリー。
チルーはなぜ怨霊になったのか? デニスのルーツは? キャラダインの目的は? 「レキオス」とは何か? 次々とあらわれる謎が錯綜し、強烈なキャラクターが大暴走。SF、ファンタジー、ミステリー、コミックノベル、ビルドゥングス・ロマンなどなど、さまざまな物語の面白さをチャンプルーのようにかき混ぜた、一大エンターテインメントです。
本書には池上作品史上最強最悪最高のキャラクター、サマンサ・オルレンショーが登場します。アメリカが世界に誇る天才学者で、絶世の美女。ところが、常人の理解を超える変態なのです。趣味はコスプレと露出。口を開けばシモネタばかり。「レキオス」の謎を自分の研究欲のためだけに追い、状況をさらに複雑化させる元凶となります。挙句の果てには「あるもの」を改造して自分専用のスーパーコンピュータにするのですが……。あまりのマッドサイエンティストぶりにのけぞること請け合い。脇役にもかかわらず完全に主役を食っている、天上天下唯我独尊のサマンサの魅力にはまってください。
【1月これも注目】『サム・ホーソーンの事件簿』4巻は新キャラクターが登場
アメリカの田舎町ノースモントの医師兼名探偵のサム・ホーソーンが活躍する人気シリーズ第4弾。 |
銀行強盗を乗せた自動車が突然消えてしまう「黒いロードスターの謎」、通電フェンスに囲まれ猛犬が番をする農家でFBIが監視するなか殺人が起きる「要塞と化した農家の謎」など、サム・ホーソーンもの12編と、西部探偵ベン・スノウものの短編「フロンティア・ストリート」が収録されています。今回の読みどころはなんといっても3巻で結婚したエイプリルの代わりに入った新しい看護婦、メリー・ベストとの出会いが描かれていること。エイプリルもお母さんになって登場します。
年老いたサム・ホーソーンが昔をふりかえって語るという設定になっている、このシリーズ。サムおじいさんが話の最初や最後で必ず御神酒(おみき)を勧める(もしくは自分で飲む)のです。昔話における「むかしむかし」やパタリロの「常春の国マリネラ」みたいなお約束があって楽しい。殺人は起きますが、どこかほのぼのした本格ミステリーです。
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