究極のすれちがいを描く、SF恋愛ミステリー松尾由美『スパイク』
『スパイク』は犬好きにもおすすめ。人間としゃべることができる上に妙に分別くさい、スパイクのキャラクターが魅力的です。 |
緑と幹夫は、犬の散歩中、すれちがいざまにぶつかりそうになりました。お互いの犬の見かけがそっくりだったから。さらに、2匹の犬は名前も同じ「スパイク」。めったにない偶然に驚き、初対面にもかかわらず2人は強く惹かれあいます。それなのに、再会を約束した日に幹夫はあらわれません。がっかりして家に帰った緑に、なんとスパイクが話しかけてきます。自分は幹夫に飼われていたほうのスパイクだと。緑と幹夫は本来出会えるはずがなかったのだと……。
再会は絶望的だと思われましたが、幹夫の消息を調べると、彼は大きな危機に陥っているらしいことがわかります。幹夫のために奔走する緑と、しゃべる犬・スパイクの探偵物語。すべての謎が解けたときの切なさと深い余韻に、ぐっときちゃってください。
ベタな悲恋をいかに描くか?舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』
「好き好き大好き超愛してる。」の作中作には、それぞれ長編にできそうなアイデアが惜しげもなく使われている。同時収録の「ドリルホール・イン・マイ・ブレイン」も奇想に驚かされる1篇。グロが苦手なかたにはおすすめしませんが……。 |
作中では、癌で恋人を亡くすノベルス作家の感情をリアルに描いた「柿緒1~3」を軸に、設定を変えさまざまな形で“好きな女の子が死ぬ話”が語られます。挿入されるのは肺に睡蓮の花ならぬ謎の虫が巣くう「智依子」、無差別殺人の予知夢を見る「佐々木妙子」、肋骨融合したアダムとイヴが神と戦う「ニオモ」の3篇。作中作がそれぞれ魅力的な短篇小説になっています。
恋人の死を悲しんでいるのに、なぜ主人公の作家は残酷な物語を書くのか? なぜそれが“祈り”になるのか? <愛は祈りだ。僕は祈る。>という冒頭のストレートなメッセージそのままの内容でありながら、凝った文体と過剰なイマジネーションで複雑な味わいを醸し出しています。
以上、ご紹介してきましたが、ミステリーと恋愛が合わさるとあまりハッピーな物語にはならないようです。でも恋の話は刹那的だからこそ美しく、メロウな気分にひたれるのではないでしょうか。
<関連ガイド記事>
・愛されるより愛したい、だけど・・・ 「愛する」勇気をもらえる本「話題の本」ガイド・梅村千恵さんによる、恋愛小説の記事。
<関連リンク>
・僧となった「恋愛小説家」なんと東本願寺のサイトに掲載されている連城三紀彦インタビュー。
・原書房のサイト『イニシエーション・ラブ』の冒頭が少しだけ読めます。
・御託をもうひとつだけ東野圭吾ファンサイト。コンテンツ豊富。
・松尾由美作品ぶろぐ松尾由美ファンブログ。新刊情報あり。
・ケムリズム舞城王太郎ファンサイト。最新情報充実。