テクノポップ/テクノポップ基礎知識

ELECTRO対談~エレクトロとそのルーツ(3ページ目)

エレクトロのルーツに始まり、いまどきのエレクトロ(ニューエレクトロ)について語り合います。黒人と白人の解釈の違いから進化していったエレクトロ、奥が深いです。

四方 宏明

執筆者:四方 宏明

テクノポップガイド

The Art Of Noise

研究生:
思わず余談に乗っかってしまいましたが、Art Of Noiseもデトロイトテクノを通過してからだと、僕は気持ちよく聴けますね。個人的には彼らの存在感をCOLDCUTと重ねています。まったく異ジャンルの2組ですが、ビザールなのに気持ちのよいリズムパターンを発明する人たちという印象です。

仮面ノリダーの怪人テーマ「Dragnet」も今聴くと、ギターソロの入るあたりはぶっ飛びサウンド。耽美的な「Moment Of Life」もゆったりした曲なのにグルーヴィ。マリックのテーマ「Legs」もフルサイズで聴くと、例のフレーズにかなり高揚できる構成になっているのでは。ただし、あの曲は普遍的なおどろおどろしさを含む感がありますから、女子受けはあまりよろしくない予感もしますが・・・。

先生:
超魔術ブレイクス
今のエレクトロ好きの女子に「Legs」とか聴いてもらっても、Mr.マリックのテーマ曲としか受け取られないのかなぁ~。

研究生:
初期の彼らのアッパー系の楽曲は、ドッパンドッパンとバカでかく鳴るドラムが印象的。スクエアなリズムなのになぜかケツにくる感覚から、僕はニュージャックスイングをイメージしてしまいます。無茶なイメージかもしれませんが(笑)。逆にドラムンベースに走ったような新し目の音は、小奇麗すぎてなんだかつまらない。プロデューサーチームならではのお寒い感が・・・。

シンセテクノロジーの限界が当時のエレクトロならではのスリリングさを演出している。博士はこの傾向を、黒人発のエレクトロにあてはまるとされています。まさに諸手を挙げて賛成の意見ですが、僕は初期Art Of Noiseにもあてはまる話なのではと感じました。彼らのサウンド処理や演出は、現在の感覚で聴くとやはりプリミティブ。ところがこれが逆に功を奏し、野蛮でいい塩梅の“エグさ”に溢れている。僕がよく使う表現ですが“イカす”んですね。

「Instrument Of Darkness」のProdigyリミックスバージョンも、オールドレイヴっぽさがかっこいい。ポイントとなるのは、オールドレイヴならではの過剰なエグさと、Art Of Noiseサウンドが含む異型さ・シュールさ(特に上物)との相性の良さだと捉えています。

先生:
やはり、世代が違うとデトロイトテクノの位置付けが違うのが面白いです。バンバータとかは、僕の中では、あくまでもP-ファンクとかの延長線上なんですよね。Art Of Noiseは、自分の中では、バグルスの売れなかったセカンド・アルバム『The Advernture Of Modern Recording』とマルコム・マクラーレンの『Duck Rock』とかの交差点の向こうにある存在。まぁ実際、聴いてみるとあながち否定できないのですが、デトロイトテクノとかには自分の中では繋がっていなかった・・・

研究生:
デトロイトテクノのヒーローにはP-ファンク(特にパーラメント名義)がありますから、繋がってはいると思います。先生や博士はルーツサウンドの発展形として、僕ら世代はロック以外におけるルーツサウンドのさらにルーツという捉え方。つまり、上から見るか下から見るかの違いかなと感じています。そもそも先生、博士、小悪魔、僕が、バンバータを見つめる始点となるP-ファンクとデトロイトテクノは、とても似ている音楽でもありますしね。

バンバータのヒップホップ寄りのサウンドの楽曲は完全にP-ファンク。でもリズムの感触はP-ファンクだとも、アッパー系のデトロイトテクノだともいえる。デトロイトテクノはファンク色の強い“黒いテクノ”ですから。一方エレクトロ色の強い楽曲は、デトロイトテクノだとゲットーテック系、P-ファンクだとパーラメント名義アルバムのスローチューン系変てこファンクのうにょうにょしたエグい感触がある。

僕が先に発言した“うさん臭さ”というのも、要は黒人ゲットーの辛い現実からのエスケーピズムの表現方法でしょう。ユーモラスに表現するのがP-ファンクやバンバータ。センチメンタルに表現するのがデトロイトテクノ。アウトプットの形は違うけれど、根本には同じ硬派スピリットがあると思われます。ただし、どちらもやりすぎ感に溢れていますが・・・。

結局、バンバータの捉え方は、彼と出会う前にP-ファンクとデトロイトテクノ、どちらを聴く機会があったのかだけだと思います。僕や小悪魔の場合はたまたまデトロイトテクノだった。でも音を楽しむ際には、どちらにも「ガチな4つ打ちじゃないけどファンキー」、「ちょっとエグ目のファンクネス」、「展開は地味だけどリズムはかっこいい」という、リズム主体のミニマルなダンストラックを楽しめる感覚が求められると感じています。

P-ファンクも僕ら世代のソウル好きだと「あれはヒップホップにつながるから、何か違和感があるねん・・・」という意見もあるんです。それは要するにループ感が強いミニマルな展開を許せるかどうかということなのではと。初期Art Of Noiseも上物は派手ですが、曲展開は基本的には繰り返しですしね。

小悪魔:
わたしも完全にそうです。 デトロイトテクノを通らずしてそのへん聴かないで!ってくらい。
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