世界ではなくてセカイ系?
先生:love the world(通常盤) |
博士:
私はやはりダフト・パンクの「Around The World」を思い浮かべました。 普通ならオリンピックに引っ掛けてるようにも見て取れるタイトルですね。
先生:
中田Pの造る世界は、そんな大袈裟なものではない。いや、独自の小世界で、訴えかけたりしない。中田Pのスタンスを感じますね。
博士:
音楽で世間に対してどうこうみたいな気負いが希薄な点。ひたすらスタイリッシュな点が逆に感動的です。
助手:
ひと昔前に「セカイ系」と呼ばれる漫画やアニメ、ライトノベルが流行ったのですが、「love the world」に限らず中田ヤスタカの描く「世界」というのは、どこかしらセカイ系の作品が描いていた「セカイ」観に近いものを感じますね。キミとボクの関係が、そのまま世界の在り方に直結するというアレです。アニメ系の人たちにもPerfumeがすごく支持されている理由には、そのへんが関係しているのかもしれません。
それにしても今回の歌詞も、今のPerfumeの置かれている状況を歌っているように聴こえますね。ここまで来るとさすがに、これは偶然ではなく狙って書いてるんだろうな、という確信しました。この歌詞の効果というのは、実はかなり大きいと思います。歌詞を深読みしたファンがPerfumeの現状を思って、勝手に感情移入して勝手に感動するんですから。まぁ僕なんですけどね。最近は歌詞聴いてて泣きますもん。ライブでは特に。
Perfumeのフラクタルアート
先生:助手、また泣いているんですね。会社の後輩の女子に泣かされていないか心配です。「チュチュチュ」はというのは凄く恥ずかしい歌詞なんですが、許せてしまうのが中田Pのなせる業です。
歌詞ももちろんPVが相変わらずいい。モノクローム・エフェクトで攻めてきましたね。ミッシェル・ゴンドリーをリスペクトしてやまないPV評論家としての博士の意見をぜひ聞きたいものです。
博士:
以前もどこかで述べたかも知れませんが、「いっそミッシェル・ゴンドリーにPV作らせろ!」的な事を言ってたら、ホントにそんな感じのPVができてきました。なんだかケミカル・ブラザーズみたいですよ。
先生:
三人のキャラ分けがさらにハッキリしてきて、無敵無比の黄金トリオとなってきましたね。特にかしゆかのパッツン+つけまつげというのは、必殺的魅力があります。のっちの髪型がウランちゃんみたいなのも気になります。
博士:
ミッシェル・ゴンドリーと少し違うのは画面全体がすっきりしてファンタジックな点ですね。実はゴンドリー的というのは誰かに言われて、あのフラクタル図形のように無限ループした映像がそういわれてみれば・・・と、後からはっと気が付いたに過ぎず、当初は全く感じませんでした。
先生:
フラクタル・・・いい言葉を出してきますね、博士。フラクタル理論はテクノです! 正にPerfumeのフラクタルアートは、繰り返しの美学。
博士:
やや精度を抑えたキッチュな感じのCGは視線が自然に三人の方に向く様に旨く仕掛けられていますね。 ゴンドリーの様なトリッキーを狙うなら、神業的なリアルさが求められますが、それは三人を表現するという点ではむしろ相反する方向性ですね。
しかし映像としては意外と実験的ですよ。 一見流行のモノクロームエフェクトにルービックキューブがくるくる回って・・・特に新しくもないやって感じたかも知れません。 ところが、これが「何的なの?」と言われると今までの何でもない。
ミッドセンチュリー的な小道具やエアライン的なデザイン処理でスタイリッシュな世界観を表現しようとした訳でもない。例えばコスチュームにしても特に何風というわけでもなく、まるで構成主義の絵画の様に、純粋に高度な芸術性を追求しています。
先生:
あの赤と白のマントのようなコスチュームは、agnès bの市販品らしいですね。
博士:
結果、まるで現在芸術のインスタレーションの様な映像ですよ。 また例の全く新しい「Perfume的」な世界観を提案してきましたね。
助手:
このPVを見ると「love the world」の世界観が補完されていくんですよね。そういう意味でこのPVはすごくよく出来てると思います。前半はグルグルとループする3人の姿が印象的で、その様子から「世界」にも惑っているように感じるのですが、2番のサビ前から躍動する生身(?)の3人が登場します。そのあたりから「世界」への感じ方の変化が出てきたような印象を受けます。
同じフレーズなのに2番のサビでは「世界」がキラメキはじめたように聴こえます。それでも海を彷徨い「喜びの中 まだ先が見えない」と来るわけです。ここでも同じようにループする3人が登場しますが、前半とは印象が違い前に進んで歩いていく様が描かれます。
そして最後は、ものすごく楽しそうに飛び跳ねて踊っている3人が。ここに至っては、もはや「世界」への戸惑いはほとんど感じられません。このPVの効果もあって、同じフレーズなのに1曲の中で、その印象が変わっていくんですよね。これはもはや深読みしすぎの気も自分ではしていますが、素晴らしいですよまったく。