ピアノ・レジェンドから「あなた好みのジャズ」を探す

1月から3月の間、“帝王”マイルスを聴き込んだあなたは、すでにジャズ初心者ではありません。ここからは、自分好みのジャズを探していきましょう。ただ、好みというのはいきなり定まるものではありません。多様なジャズのスタイルをひととおりは押さえたうえで初めて自分の好みがわかる、そういうものです。

では、ジャズの好みを分けるのは何か? ここでは、基本的なコンボにおけるカラーをもっとも顕著に左右してしまう楽器である「ピアノ」に焦点をあててみましょう。さまざまなピアニストの演奏を聴いていただくことで、ジャズの多様なスタイルを楽しんでいただきたいと思います。

■4月:バド・パウエル『ザ・シーン・チェンジズ』
バド・パウエル『ザ・シーン・チェンジズ』
バド・パウエル『ザ・シーン・チェンジズ』
1958年。
バド・パウエル (p)、ポール・チェンバース (b), アート・テイラー(ds)
1. クレオパトラの夢
2. デュイッド・ディード
3. ダウン・ウィズ・イット
4. ダンスランド
5. ボーダリック
6. クロッシン・ザ・チャンネル
7. カミン・アップ
8. ゲッティン・ゼア
9. ザ・シーン・チェンジズ
10. カミン・アップ(別テイク)
CDをかけた瞬間、そのスピード感に度肝を抜かれることでしょう。ジャズの歴史的なことでいうと1940~50年代初頭までに流行したビ・バップというスタイルの典型的なスターであったのがこのバド・パウエルです。

ビ・バップについての詳細は、過去の記事を参照していただくこととして、ここでは簡単にバド・パウエルのようなピアノスタイルが後世に与えた影響を少し解説しておきたいと思います。

ビ・バップは革命的な音楽だった、と言われます。どこが革命的だったかということを一言で言えば「口ずさめない音楽である」ということ。それまでの音楽はクラシックであれ、ポップスであれ、鼻歌なりで口ずさむことが可能でした。

しかし、このCDを聴けばおわかりのように、テーマのメロディはかろうじて口ずさめますが、アドリヴは一回や二回聴いてもさっぱり頭に入ってこないのではないかと思います。テーマそのものも、テンポが速すぎて、どう考えても口ずさむには向かない。

実は、ビバップのアドリヴの背景には、数学的・理論的な音楽の捉え方があります。いわゆる「歌」ではない「音楽」あるいは「アートとしての音楽」への志向がはっきりと出てきたのが、ビ・バップというスタイルの革命性なのです。

まったく「意味」がはっきりしない、にもかかわらず聴いていると楽しく、高揚感を覚える。今の音楽ジャンルでいえばダンスミュージックなどに通じるような感性というのは、実はその原点をビ・バップに求めることができるのです。

■5月:ビル・エヴァンス「Portrait in Jazz」
ビル・エヴァンス「Portrait in Jazz」
ビル・エヴァンス「Portrait in Jazz」
1959年。ビル・エヴァンス(p)、スコット・ラファロ(B)、ポール・モチアン(Dr)
1. Come Rain or Come Shine
2. Autumn Leaves
3. Witchcraft
4. When I Fall in Love
5. Peri's Scope
6. What Is This Thing Called Love?
7. Spring Is Here
8. Someday My Prince Will Come
9. Blue in Green
次に紹介するのは、ビル・エヴァンスの作品。実は、スタイルとしては、1~3月に紹介したマラソン・セッションでのレッド・ガーランド(p)のもののほうが時代的には古く、またメジャーでもあります。順序としては、パウエル→ガーランド→ビル・エヴァンスと捉えていただければ、おおむね間違いありません。

ビル・エヴァンスの本作における演奏法は、理論的には「モード」と呼ばれる手法を積極的に取り入れていますが、とりあえずは細かな理論のことは無視して、全体の雰囲気を聞き比べて見てください。

人によって感じ方、あるいは言葉の表現は違うかもしれませんが、バド・パウエルやレッド・ガーランドの演奏に比べて、空間が広く、どことなく自由さの幅が広がっているように感じないでしょうか?

また、ドラム、ベースの演奏も、たとえばパウエルのトリオと比べると、それぞれ自由に、個々の表現を追及しているように聞えます。

エヴァンスのスタイルは、パウエルに代表されるビバップスタイルとともに、その後のジャズピアノのスタイルに長く影響を与え続けています。エヴァンスの作品を聴き込んでおけば、現代活躍するピアニストを聴くときにもさまざまなかたちでその影響を感じることができます。

■6月:セロニアス・モンク『ソロ・モンク』
セロニアス・モンク『ソロ・モンク』
セロニアス・モンク『ソロ・モンク』
1964年
曲目
1. ダイナ(テイク2)
2. アイ・サレンダー,ディア
3. スウィート・アンド・ラヴリー(テイク2)
4. ノース・オブ・ザ・サンセット
5. ルビー,マイ・ディア(テイク3)
6. アイム・コンフェッシン(ザット・アイ・ラヴ・ユー)
7. アイ・ハドント・エニワン・ティル・ユー
8. エヴリシング・ハップンズ・トゥ・ミー(テイク3)

9. モンクズ・ポイント
10. アイ・シュッド・ケア
11. アスク・ミー・ナウ
ほかボーナストラックあり
4~6月はピアノアルバムを紹介してきましたが、最後はピアノソロのアルバム。しかも、超個性派のセロニアス・モンクを持ってきました。ただ、「個性派」とは言いましたが、ニューヨークのジャズ界を牽引したあまたのミュージシャンの間で、もっとも求心力を持ち、ミュージシャン仲間からの尊敬を集めていたのはモンクであった、ということは忘れないようにしてください。

モンクの音楽は異端であり、同時に王道でもあった。ここに、ジャズという音楽のおもしろさがあるように思います。常に新しいものを求め、新しいものが次の日に古くなってしまうような革命性こそを推進力にしてきたジャズミュージックにおいて、モンクは常に「新しさ」を生み出し続けていました。しかも、その「新しさ」は、常に時代とは無関係の「独自性」に根ざしたものであり、その意味では「先進性」というより「新鮮さ」を提供し続けたといえるでしょう。

余談ですが、この「ソロ・モンク」は、なぜかジャズ初心者にも人気が高い作品です。メロディが親しみやすいのかもしれませんが、なかなかどうして深みのある作品です。ぜひ、聴き込んでいただければよいと思います。

次は7~9月。ジャズの花形、サックスから3枚をセレクト!!