ジャズの「基本」は“帝王”のセッションから

■1月:マイルス・デイヴィス『Workin'』
マイルス・デイヴィス『Workin'』
マイルス・デイヴィス『Workin'』
1955年。
1. It Never Entered My Mind
2. Four
3. In Your Own Sweet Way
4. Theme
5. Trane's Blues
6. Ahmad's Blues
7. Half Nelson
8. Theme
初っ端に何を聴けばいいのか? いろいろと考えましたが、1年間お付き合いいただけるあなたであれば、やはり「基本」から押さえておくべきだろうと考えました。ジャズの「帝王」が行った、ジャズの「基本」ともいえる、セッションアルバムです。 初めてジャズを聴く人には歌もの、あるいはロックっぽいものを勧めるのも1つの手ですが、1年間で「ジャズ通」を目指すのであれば、ジャズ界の「帝王」、マイルス・デイヴィスの作品から入るのがよいだろうな、と考え選んだ一枚。

この「Workin'」は、2月、3月でも紹介するアルバムといわば「兄弟関係」にある作品です。本作が録音された1955年ごろ、マイルスはそれまで所属していたプレスティッジというジャズ専門レーベルから、メジャーレーベルであるコロンビアに移籍しようとしていました。

しかし、プレスティッジとの契約はいまだ残っており、マイルスは契約を消化するために後に「マラソン・セッション」と呼ばれる2日間での短期集中レコーディングに挑みます。

「Cookin'」「Steamin'」「Relaxin'」とこの「Workin'」に収録された演奏は、すべてこの2日間に録音されたもの。このようなすばらしいクオリティとオリジナリティを兼ね備えた、世界で唯一無二の芸術作品がたった1日2日で収録できてしまう。ジャズのおもしろさの1つがここにあります。

■2月:マイルス・デイヴィス『Relaxin'』
マイルス・デイヴィス『Relaxin'』
マイルス・デイヴィス『Relaxin'』
1955年。
1. If I Were a Bell
2. You're My Everything
3. I Could Write a Book
4. Oleo
5. It Could Happen to You
6. Woody 'N You 試聴する
1月に引き続いて、マラソン・セッションからのアルバム。「どこかで聴いたことがあるような」イントロで始まる「If I were a Bell」。ジャズは本来、どのようなアレンジも自由であるはずなのですが、マイルスらジャズ・ジャイアンツが行なったアレンジは、しばしば「定番」となります。

そのことはアレンジだけでなく、選曲にもいえます。つまり、ジャズは本来、どんな曲であっても自由にアレンジして、即興演奏を行なえるはずのものなのですが、ある種の楽曲は、ジャズ即興演奏でしばしば取り上げられる定番、スタンダードとして定着しています。そして、そうしたスタンダード曲は、多くの場合、マイルスらジャズ・ジャイアンツの名演によってスタンダードとして認知されるようになったものが多いのです。

1月に挙げた「Four」や、今回の「Cookin'」に収録されている「If I Were a Bell」「You're My Everything」「I Could Write a Book」「Oleo」「It Could Happen to You」「Woody 'N You」(つまり、全部ですが)などの曲はすべてスタンダードですが、これらがスタンダードとして記憶されるようになった大きな理由の1つとして、本作での名演がある、というわけです。

これらの曲はスタンダードですから、他のジャズミュージシャンもしばしば取り上げています。そうした演奏を聴くときに、マイルスのものと比較して聴く、というのはジャズの楽しみ方の王道の1つです。なぜなら、ジャズを志す人間で、これらの演奏に触れていない人はまずいないからです。

■3月:マイルス・デイヴィス『Cookin'』
マイルス・デイヴィス『Cookin'』
マイルス・デイヴィス『Cookin'』
1955年
1. My Funny Valentine
2. Blues by Five
3. Airegin
4. Tune-Up/When Lights Are Low
6. Just Squeeze Me (But Don't Tease Me)
マラソンセッションからもう1枚、『Cookin'』をご紹介しましょう。マラソンセッションにはほんとはもう一枚『Steamin'』という名盤があるのですが、紙幅の都合上、ここではご紹介しません(が、こちらも文句なしの名盤ですよ)。

『Cookin'』を紹介する理由の1つは、1曲目に収録された『1. My Funny Valentine』の名演を聴いてほしかったから。これも、マイルスの演奏でジャズスタンダードとしての地歩を固めた楽曲の1つです。

3枚のマラソン・セッションをじっくりと聞き込むことで、ジャズのスタンダードといっても、本当にいろんなタイプの曲があるということがわかるでしょう。また、アドリブといっても、とんでもないスピードで音を詰め込むようなものから、行間を空け、聴かせるようなソロまで、いろいろあるんだということが実感できたかと思います。

ちなみに、マラソンセッションのメンバーは、Miles Davis (tp)、ジョン・コルトレーン、レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) です。

これらのメンバーの名前は、ジャズ通をめざす人であれば覚えておいて損はありません。それぞれの楽器の分野で、少なくともある側面では頂点を極めた人たちであると思います。

次は4~6月。ピアノ・レジェンドから「あなた好みのジャズ」を探してみてください!!