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インナーゲーム オブ ジャズ Part1(3ページ目)

30年前に一大センセーションを巻き起こし、今また「コーチングブーム」の中で再評価が始まっている「インナーゲーム」理論。話題の理論をジャズ演奏に活用!

執筆者:鳥居 直介

セルフ1(自分)とセルフ2(自身)

インナーゲームの著者、ガルウェイは、テニスレッスンの中で、生徒が自分で自分を責めている姿を見ているうちに、「誰が誰を責めているのか?」という問いを抱き、ある仮説にいたった。人間の中には、考え、評価し、判断し、命令するセルフ1と、実際に動くセルフ2がある。人が「自分で自分を責める」というのは、セルフ1がセルフ2を叱責し、命令に従わないセルフ2にあきれ返っているという状況だ。「何で俺の指はうまく回らないんだ?」という自責は、まさにこれにあたる。

日本語の場合、よくできた訳語を『インナーゲーム』訳者の後藤新弥氏があてている。セルフ1に「自分」、セルフ2に「自身」とあてる。「自分」が「自身」を命令どおりに動かそうとし、その命令に従わない「自身」に失望し、落ち込んでいる……といわれれば、多くの人には思い当たる節があるのではないかと思う。

セルフ1を黙らせてみよう!

さて、ここまでは「インナーゲーム」を理解するうえでの前置きである。ガルウェイが、セルフ1、セルフ2と置くことによって発見した、「物事をうまくやるコツ」はシンプルなものだ。それは「セルフ1を黙らせ、セルフ2の好きにやらせたほうが、飛躍的な上達が見られる」ということである。

なぜそうなるのか? とか、そんなはずがない、とか、セルフ1やセルフ2というが、そんなものに科学的根拠はあるのか? といった問いは口にするだけ野暮というものだ。ガルウェイ自身も「インナーゲームは宗教ではない」と強調し、とにかく自分で試してみることを進めている。

では、具体的に「セルフ1を黙らせ、セルフ2の好きにやらせる」とはどのような状態なのだろうか。ここでは、楽器を使ったゲームをやってみよう。これはあくまでゲームであり、練習や訓練ではないことを了解したうえで取り組んでみてほしい。

(1)課題となるフレーズを1つ選ぶ。長いものでも短いものでもよいし、楽譜でも耳コピーしたものでもよい。できれば、自分が上手く弾けないもの、もっと上手く弾きたいと思っているものを選ぶ。

(2)メトロノームに合わせてフレーズを弾く。音符に忠実に弾いたり、スウィング感、グルーヴ感を高めるように気をつけて弾いたり、すごく早いテンポ、遅いテンポなど、いろんな弾き方を試す。

(3)さてここからが「インナーゲーム」の本番だ。以下の練習では、(2)で気をつけていたポイントをすべて忘れる(「忘れる」というのは、それらの基準で「よい」「悪い」という判断をすることをやめる、ということ)ことが大切だ。フレーズなどは1~2と同じでよい。

(4)自分が出している音を聴くことに徹する。あたかも、CDから流れている音を聴いて、楽しむように。このときに重要なのは、自分の演奏をコントロールしようとしたり、評価(今の音はダメだ、とか、リズムが外れた、とか)することを止める。とにかく、自分の音を聴くことに集中する。

(5)自分の運指に全神経を集中する。しかもそれは、正確な運指をコントロールするのではなく、自分の指が今、どのように動き、どれくらいの圧力をかけ、どの筋肉がこわばっているのか、ということを第三者的に観察する。

セルフ2の潜在能力

さて、(4)~(5)といった「ゲーム」に取り組んだ読者の中には、自分の演奏する音に変化が現れた人もいるかもしれない。その場合は、その変化を忘れないようにしようとか、分析しようとする必要はない。その状態をただただ、楽しむようにしてほしい。

もちろん、そうした現象が現れていなくても問題はない。これはあくまでゲームであり、ここで重要なのは、セルフ1(自分)が、セルフ2(自身)を評価したり、コントロールすることをいかに止め、自分の出す音や、自分の身体がもたらす情報に集中できるかということである。

これは案外難しいゲームである、ということがやってみた人にはわかるだろう。そしてその難しさに気づいたとき、同時に気づくのは、これまで演奏の最中、いかに自分の音や自分の身体の状態に耳を傾けていなかったかということだ。

それでは、演奏するうえで一番耳を傾けるべき自分の音に関心を寄せないで、これまでセルフ1(自分)はいったいどこに神経を集中してきたのだろうか? 答えは前ページのエピソードの中にある。セルフ1は、セルフ2に命令し、セルフ2が言うとおりにできないことを叱責し、失望することに忙しかったのだ

セルフ1を黙らせることで、セルフ2の潜在能力を最大限に発揮させる、それがインナーゲームの基本的なコンセプトであり、ここで紹介した方法は(ガイドがジャズ向きにアレンジしたものではあるが)、その代表的な方法である。

次ページでは、インナーゲームについてのよくある疑問に答えます!


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