藤本:なるほど。でもMoog IIIcの写真とMoog Modular V の画面を比較すると、デザイン的に見て違う部分もいろいろありますよね。
氏家:まあ、モジュラー型シンセですから、組ようによって、各モジュールをさまざまな位置に配置できるため、全体が同じというわけにはいきません。ただ、オシレータやフィルタなど各個別のモジュールにおいては結構よく似ていると思いますよ。中には使いやすくするため、一部修正を加えたものもありますけどね。また、あえて変更した部分もいくつかありますよ。たとえばデジタルディレイやデジタルコーラスなどは当然新規のものですしね。
藤本:デザインについては分かりました。でも音についてはどうなんでしょう?実際にMoog IIIcと近い音なんですか?
氏家:MINI Moogを使ってきた私として、個別モジュールの音は非常に近いと思いますし、実際に松武さんのものと比較させてもらってもかなりそっくりですね。ここにはTAE(R)という技術がキーになっているんですよ。
藤本:パンフレットなどでTAE(R)について見ましたが、これはいったいどんなものですか?
氏家:True Analog Emulation(トゥルー・アナログ・エミュレーション)の略で、Moogシンセサイザーのオシレータやフィルターの質感を忠実に再現することのできる技術です。たとえば、現在あるアナログシンセのエミュレータのほとんどのもので生じているのがエイリアスという現象です。これはサンプリングレート以上の高い音を出そうとする際、生じてしまう跳ね返り現象で、本来出す音とは違う音が乗ってしまうというものです。アナログでは絶対に生じないものですが、TAE(R)でもこれを避けるような仕組みが搭載されています。また、TAE(R)をうまくチューニングし、本物の音にかなり近づけていますよ。
藤本:ということは開発元であるフランスのArturiaにもMoog IIIcがあって、それと聞き比べながら開発したということですか?
氏家:その通りです。彼らもかなり程度のいいMoog IIIcを保有しており、これと聞き比べてソックリにしているんですよ。またこうした古いシンセの場合、アナログ部品にところどころ質の悪いものが混じっていて、安定しない部分があって音が割れることがあります。でも、それがかえっていい味を出すんです。妙なディストーションがかかったような感じで……。ソフトクリッピングと呼んでいますが、そんなところまでTAE(R)でエミュレーションしているから面白いですね。
藤本:なるほど、かなりマニアックですね。きっとArturiaにはそんなマニアックな人たちがいっぱいいるんでしょうね。
氏家:彼ら、かなりマニアックです!だからこそ、これだけのものが作れたんでしょう。でもせっかくここまでできたからということで、Moogシンセサイザの開発者であるモーグ博士に出音を聞いてもらったんです。その結果「音は素晴らしい」というお言葉をいただくと同時に、細かい調整を含めて意見ももらいました。それらを反映したこともあって、正式にMoogのロゴがこのModular V で使えることになったんです。
藤本:本家のお墨付きということですね。ぜひ、このModular V でどんな音が出るのか、私もさっそく試してみたいと思います。でも、このマニアックな集団はModular V を作ってオシマイといことはなさそうですね。今後の予定とかは決まっているんですか?
氏家:まだ、明らかにできませんが、さらにマニアックなものが登場しますよ。10月の楽器フェアのころにはArturiaの新しいVSTインストゥルメントが間違いなく登場しますね。ぜひ期待していてください。
藤本:楽しみにしています。本日はありがとうございました。
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