藤本:ところで、このMoog。いまは「モーグ」って発音しますけど、当時は「ムーグ」って言っていましたよね。私個人的にはどうも「モーグ」という呼び方に違和感を感じるんです。確か開発者のMoog博士が「自分はモーグだ」と言っているから、「ムーグ」と呼ぶのが間違いであるということは分かるんですけど……。
氏家:そうですね。名前だから仕方ないですけど、私もMINI Moogは「ミニ・ムーグ」って今でも呼びますね(笑)。でも、英語読みすれば誰が読んでも「ムーグ」です。また当時はヤマハがMINI Moogの輸入代理店をやっていて、そのヤマハ自ら「ムーグ」って呼んでいましたよ。
藤本:なるほど、そうだったんですね。さて、先日発売されたMoog Modular V はモジュラー型のMoogであるMoog IIIcのエミュレータという位置づけですが、氏家さんご自身はモジュラー型のMoogを使った経験はあるんですか?
氏家:モジュラー型のシンセとしてRolandのSystem 100m、、パッチング式シンセとしてKORGのMS-20は触ったことがありますが、残念ながら、Moogのはありませんね。MINI Moogは店頭で見ることはできましたが、モジュラー型のものは展示されていませんでしたから。当時、日本でこれを購入し、実際に所有していたのは冨田勲先生と松武秀樹さんのお二人くらいじゃないでしょうか。また松武さんに伺ったところ、その時の購入価格は700万円だったそうですよ。それをエミュレーションしたMoog Modular V の価格が39,800円(アイデックス・ストア価格)ですから1/200近い
価格になったわけですよ。
※写真提供 日本シンセサイザー・プログラマー協会
藤本:そのMoog Modular V 、私がはじめて見たのは昨年11月に恵比寿で行ったシンセフェスタのIDECSブースででしたが、氏家さんが一番最初にこの話を聞いたのはいつごろだったんですか?
氏家:あのシンセフェスタの約半年ほど前ですね。開発元のArturia(アートリアと読む)ではその時点でもうプロトタイプはできており、音を出すこともできました。そのときからずいぶんいい音を出していましたよ。ただ、デザイン的には発売されたものとはずいぶん違うものでしたね。製品化されたModular V はケーブルを使ってパッチして接続するユーザーインターフェイスになっていますが、当時のものはマトリックス型になっていました。でも、使ってみると、非常に分かりにくく、使いにくかったのです。せっかくMoog IIIcをエミュレーションするんなら、パッチ型にしなくては意味がないってAuturiaには言い張りましたよ。それから、デザイン、ユーザーインターフェイスは紆余曲折があって、現在の形へと進化していったんです。