そして、なんといっても鼠の妖術使いの仁木弾正の登場だ。御家騒動をもたらしたその実行犯的な存在。花道のスッポンから怪しい煙と共に登場する。スッポンから登場するのは、狐とか鼠とかこういう怪しい存在だという典型だ。
暗闇の中からどろどろという鳴り物が響き、ぬっと現れるその横顔だから、凄みのある造作が望ましい。かつて、近代の名優・五代目尾上菊五郎は、六代目誕生のそのとき、「仁木のできる顔か」どうかを気にしたというエピソードも残っている。
最後に、問注所、つまりお白洲に善玉と悪玉が分かれて並び、大沙綾型(おおさやがた)の襖がいやでも目に入る。濃紺と銀色が卍を崩したような模様になっている独特のものだ。この派手な襖を背負って勝元が弁舌さわやかに悪を見顕すのだ。