ダイヤモンドにアクアマリンに
「観るのとやるのとは大違い!」と開口一番苦笑気味に語る男女蔵さん。
「お坊も和尚も弾正もみーんな初役です。弾正だってうちの父(左團次さん)のと、成田屋さんのと型も細かく違ってくる。今はそれを教わっている段階です」。
男女蔵さんは5つの初役への挑戦に興奮しつつも、かなりの緊張も感じているようだ。
「まだまだ自分には”引き出し”が少ないって分ってる。頭では理解しているつもりでも、体がついていってない。自分が一番自覚してますよ。
でも先輩のみなさんがほんとに親切に教えてくださる。本来自分で苦労して身につけるべきことを、親切に教えてくださるんですね。”甘えてないでてめえでやれよ”って放っておかれてもしかたないのに。
ただ、どんなにがんばって教わっても、その人にはなれない。あくまでも下手なコピーにしかなれない。最後はやはり自分の中から出てくるものを待たなくては。でも今は、まずは教わったとおりにやれればと思っています」。
『毛抜』では、左團次型を男女蔵さんが、成田屋型を獅童さんが習っている最中。段取りや小道具など少しずつ違ってくるそうだ。
今まで何度もされたであろう質問を、改めてぶつけてみる。
ダブルキャストについてだ。
「意識しないといえばウソになりますが、でも今はそういう相手とか仲間を大切にしていきたいという、相手を敬うような気持ちなんです。一ヶ月間、みんなで無事に公演をおさめたい。
それと、みんながダイヤモンドじゃ芝居にならないでしょ。アメジストがあったり、アクアマリンがあったりしていいと思う。それぞれの味が出れば。押さえとかアンサンブルとか、サッカーならキーパーやディフェンスが必要なように。組み合わさって一つのものになればいいなと思いますね。
それよりもなによりも、浅草歌舞伎という場所と機会を与えられていることをありがたいと感じています。だって誰だってみんなやりたいわけですよ。吉三にしろなんにしろ。その中でやらせてもらえるってことは、本当にうれしい」
『三人吉三』・・・河竹黙阿弥のご存知『三人吉三巴白浪』大川端庚申塚の場。三人の吉三が出会い、義兄弟のちぎりを結ぶ場だ。その三人のリーダー的存在でもある和尚吉三と、元は侍、悪の道へ身を持ち崩したお坊吉三の二役を男女蔵さんは演じる。
和尚とお坊、どっちが好きですか?
「うーん。この場では、お嬢に対してお坊はいつも上から上から出ている、ちょっと下に見ているところがあるんです。和尚は押さえ役。お坊は坊ちゃん風のワルで、本当の悪党は和尚の方でしょう。どちらかといえばお坊かな」。
(筆者は勝手に”和尚が似合いそう”と思っていた)。
「あ~、なんかそういわれるような気がしてました。そうなのかなあ、やっぱり」と、微妙に納得したような表情になった。