2作品のタッチを変えて
今回梅玉さんが演出を担当した『白骨城』は、2002年の秋から準備が始まった。梅玉さんは原作を読み込み、全体の流れを考え、作者に加筆修正を頼んだ部分もあるという。同時に上演する『実朝』とは違う特色をどのように出していくか、国立劇場サイドと検討を重ねた。その結果『実朝』は舞台も抽象的な、かつ淡いタッチとし、音楽も小椋佳氏に依頼して現代的な印象も加わった。
『白骨城』の方はいわゆる歌舞伎の様式をとりいれ、黒御簾音楽や竹本を用いたりツケを入れることに。狙い通り2作品それぞれの特色を際立たせる結果となった。
「なにより大事にしたのは、全体の流れと色彩なんです。『白骨城』の方では後から私が作者にお願いして夢の場を加えていただいた。衣裳も歌舞伎の通常のものではなく、森英恵さんに依頼して見た目にもインパクトのあるものを考えました」。
さて問題は役柄である。一つ一つの役をどのように作るのか。台詞はどのように言ってどのように動くのか。役の性根は?
「一つ一つの役については、皆さん他の役者さんはそれぞれ研究し工夫されているので基本的はそれを生かして。ただ部分的には私から指示させていただきました。全体の流れを大事にしたいですし、一人よがりになってしまってもいけない。バランスを考えながらということですね」。
自分に近いキャラクターは何か
たとえば梅玉さん演じるのは、源氏三代目の悲劇の将軍・源実朝(『実朝』)と、戦国時代の知将・黒田如水(『白骨城』)。実朝はともかく、「如水は私のイメージではないでしょう。肖像画とか見ますと野太い感じだし。どちらかというと自分のキャラクターにはないタイプですね。でもちょっとクールで野心家で、非常に醒めたところのある人です。そのあたりは自分のキャラクターに近いのかなと思いました。そういう近い部分があればその役を自分にひきつけられるんです」。
役を理解するために台本を読み込み、歴史上の人物ならば当然のようにその資料を調べるという。だがそれはあくまでもその人物についての「情報」。作者の狙いを把握するための作業だ。その人物になりきることよりも歌舞伎の場合は、役者・中村梅玉が演じている義経あるいは富樫、ということが大事なのだという。役者の個性を役柄のなかで見出す。これは歌舞伎の面白さの最大の一つだろう。
「ただね、台詞はなかなか大変ですよ、一から覚えるのは。全体の流れを把握してリズムを作っていくようにしています。台本のあのページのあの部分にあったな、なんていう覚え方もしますね」。
そして演出に携わりながら思うのは、やはり故・中村歌右衛門さんの言葉だという。「父(歌右衛門さん)は本当に新作を非常に大事にしてきた役者です。実に細かいところまで目を届かせて。役者さんはもちろん、下座にも注文を出していました。なるほど、歌舞伎の芸のテクニックがすみずみまで味わえる新作が必要なんだな、と父の言っていたことを折に触れ思い出しましたね」としみじみと語る。