歌舞伎/歌舞伎関連情報

「舞台は生物。終わるまで息つけず」 舞台裏を支えるお弟子さん達(2ページ目)

今月歌舞伎座夜の部『本朝二十四孝』で大活躍している京屋一門の皆さんの奮闘振りについてインタビューしました。

執筆者:五十川 晶子



●まず11月の3人の1日のスケジュールをざっと紹介しよう。
昼の部に腰元として出演する三人は9時半に楽屋入りして化粧をし、衣裳を着ける。11時には舞台に出ていなければならない。それが済んで1時半ごろ、昼食を兼ねてやっと短い休憩。だがまたすぐに、夜の部の八重垣姫の雀右衛門さんの支度にかかり、「十種香」の幕が開いても黒衣の衣裳で小道具を出したり引っ込めたり何かと忙しい。その次の「奥庭」の幕では、諏訪法生の兜など小道具の準備、芝雀さんの初の宙乗りのため、その仕込みでめまぐるしい。

月初めに幕が開き、初日はなかなか体がそのめまぐるしいペースに慣れないが、2~3日するうちに、「1分きざみで体が覚えてくれるように」(京蔵さん)なるという。そうすると、後の20数日間は、もう体が自然と動くのだそうだ。その見事な連携プレーで、安心して人形振りの芝雀さんを楽しむことができる。と、思いきや、舞台にいる間は常に緊張の連続だそうだ。

「(芝雀さんが)無事に上がって降りてくるまで、何もなく済むように毎度祈るような気持ちなんです」と京蔵さん。
「自分が香を焚いてその煙がいい具合に立ち上っていくと、舞台全体の雰囲気がいいような感じがするんです(笑)。そういうときはうれしいですね」。そんな細かい仕込みがうまくいけば、師匠もいっそう気持ちが入る。芝居ももりあがる。客も楽しめるという好循環。お弟子さん達がめまぐるしく仕込み続けているその努力は、そんなふうにお客に伝わっていく。
でも「(宙乗りの器具を)カチッととめて、一度引っ張ってきちんとかかったか確かめるのですが、うまく引っ張れなかったことが今月一度だけありました。冷や汗ものです」(京紫さん)ということもあるらしい。
自らも勉強会や小町をテーマとした実験劇・舞踊で主演する京蔵さんは、舞台袖で師匠の八重垣姫を見ながら、勉強にも余念がない。
そんなふうに、今月は芝雀さんを中心に、お弟子さん達が固くまとまってひとつの舞台を作り上げていく実感がうれしいと3人とも口をそろえて言う。




今月の人形振りに限ったことではなく、師匠とお弟子さん達の見事な連携プレーで、舞台はいっそう盛り上がる。たとえば『道成寺』や『鷺娘』の引き抜き。師匠が踊る間に、袖などに前もってつけてある糸を引っ張り、衣裳を瞬時に替えてしまう。歌舞伎らしい眼の覚める様な感動の瞬間の演出には、こんな縁の下の力持ちであるお弟子さん達の存在が欠かせないのだ。

「引き抜きなどのある月には、師匠のタイミングとうまく気がぴったり合ったときなど、”ああ、うまくやれたな”と」(京蔵さん)充実感があるのだそうだ。むろんその逆もあるのだろう。だから舞台は怖い。
「お客様にとっては、いろいろな仕込がうまくいっていて当たり前。でもこちらからすると、毎日が勝負です。舞台では日々何が起こるかわからないですから」と京紫さんも。

「以前『鷺娘』で引き抜きのときに糸が切れましてね・・・。思い出してもゾッとしますよ。とにかくすぐに頭を切り替えて、指で手繰り寄せて、”絶対うまくやれる”と信じてやるんです。・・・・あ~いやだいやだ。今思ってもゾッとする!(笑)」と、声に力が入った京蔵さん。自分のミスが師匠をはじめ周囲に迷惑をかけることになるのが一番辛いという。
「そういうトラブルは引きずらないようにします。その日限りに納めて、お酒飲んだり泳ぎに行ったり」(京紫さん)。あるいは好きな店へ食事に行くなど。3人とも日本酒派。芝居がはねて、一緒に飲むときも、それぞれバラバラに飲むときもあるそうだ。
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