文章:五十川 晶子(All About「歌舞伎」旧ガイド)
当サイトでもご紹介している市川亀治郎さんのホームページは、楽屋での衣装や化粧の支度などをムービーで見られるなど、歌舞伎ファンには非常にうれしい内容だ。その亀治郎さん、第一回亀治郎の会をこの8月京都で開催する。

8月2日~ 6日
京都造形芸術大学京都芸術劇場「春秋座」


『摂州合邦辻』玉手御前
『春興鏡獅子』小姓弥生・獅子の精
市川段四郎さん、市川門之助さん、中村又蔵さん、上村吉弥さん他の出演

運命の女
今回亀治郎さんが演じる「玉手御前(たまてごぜん)」は、義太夫狂言『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』のヒロインで、女方屈指の大役とされている。
玉手は先妻を失った高安道俊の後妻である。妾腹の息子と先妻の息子・俊徳丸との跡目争いの陰謀が渦巻くなか、俊徳丸に恋慕し毒酒を飲ませ眼病にしてしまう。だが実はそれは陰謀から俊徳丸を救うためであった。結局父・合邦に不倫の罪を責められ斬り付けられてしまう。だがその自分の生き血を飲ませることで俊徳丸は元の美しい姿にもどる。
「母子相姦」というテーマを含むドラマチックな内容だ。「母子相姦」といえば、ギリシャ悲劇からフランス演劇の古典『フェードル』まで共通するモチーフの芝居はいろいろあるが、歌舞伎ならではの見所はやはり「女と母の間をゆれる女」を表現する「芸」かもしれない。
玉手は過去多くの名優達によって演じられてきた。本当は息子・俊徳丸に恋していたのではないか。恋をしかけた振りだけなのか。たしかに観るたびに新しい感動のあるドラマなのである。

若い肉体の存在感を
亀治郎さんはこの玉手について、「魅力的な役だと思います。元々姫よりも”眉なし”の役が好きなんです。女方が幕切れの柝を取れる役って元々そんなにないのですが、玉手はその中でも柝を取れる珍しい役。今回はできるだけ浄瑠璃に近い形でやります。20代だったという玉手を意識して、恋なのか、母の愛なのか、プランを考えているところです」と語る。
若い娘の役よりも、酸いも甘いも知り尽くしている大人の女が演じていて楽しいという。
筆者もかつて故・尾上梅幸丈や中村芝翫丈の玉手を観たが、二人の玉手はそれぞれ別の感動を与えてくれた。
「しおらしさ、かわいらしさは、先輩達の芸にかなわない。でも若い女の肉体的な存在感を出すなら、自分がやってみる意味があるかなと思っています」と頼もしい答えが返ってきた。またとにかく原作を読み込んでいるという。
「より正確に読む。何度も何度もよむ。深く理解する。役者の役への工夫はまずそこにあると思います。今回はより人形浄瑠璃(の『摂州合邦辻』)に近くなるはずで、悲劇性が高められてテンポは速くなると思いますよ」。いつもとちょっと違った玉手が観られそうだ。