歌舞伎/歌舞伎関連情報

松江から魁春へ。辰之助から松緑へ。 歌舞伎役者はなぜ襲名するのか 1

今年以降、歌舞伎役者の襲名披露の予定が目白押しだ。襲名披露にともなって、華やかな披露興行が行われる。

執筆者:五十川 晶子


(歌舞伎座四月大歌舞伎の中村魁春襲名披露興行のチラシより)



<襲名するということ>

例えば歌舞伎だけでなく『ラ・マンチャの男』や三谷幸喜の舞台、ドラマやCMなどでおなじみの九代目松本幸四郎。その前名を市川染五郎といった。襲名は1981年10月である。このころから歌舞伎のほかにも新劇やテレビなど多彩な方面で活躍していた幸四郎は、襲名を目前何を感じていたのだろうか。

「重圧を感じましたよ。周りがえらい方ばかりでしょ。自分の体の中に歌舞伎役者としての芸も格も力もないと落ちこんでいた時なのに、襲名という形で歌舞伎がばさっとのしかかってきたんです。無理やり手足を引っ張られて大役をやっている感じで、襲名の喜びにひたる余裕はありませんでした」 ――『幸四郎の見果てぬ夢』松本幸四郎、水落潔 著・毎日新聞社

祖父の初代中村吉右衛門という名優中の名優の養子となった二代目中村吉右衛門も「私はなんとか初代のようにうまくやろう、褒められたいという気持ちでいっぱいでした。そのくせ“ああ、これではだめだ。なんとおれは下手なのだろう!”と焦るばかりなのです」と、襲名に際して語っている。 ――『半ズボンをはいた播磨屋』中村吉右衛門著・淡交社

現在の名前よりもより大きな名前、格の高い名前を継ぐ以上、その名前にふさわしい役者になろうと努力する。観客を初め、周囲も期待する。名前にふさわしい大役や、先代が得意とした役が次々と回ってくる。もちろん最初は新たな名前と役者自身がなかなか一体化しない。先代の役者の印象もある。観る側からすると、名前とそれに追いつかない肉体のギャップにぎこちなさを感じる日もある。しかしあるとき突然、その目には見えない精神的に甚大なプレッシャーが舞台で昇華する瞬間を見る。

「“襲名”とは、役者が先祖・父兄・師匠その他先人の名跡を継ぐことをいう ~中略~ 襲名は先人のその芸風・信用・地位を引き継ぐわけで役者生涯の重要事となる。格の上で一段または数段階を超えて上の名跡を継ぐのが常である。襲名に当たっては贔屓筋に挨拶するほか、とくに華やかな興行を行って披露をする。」――『歌舞伎事典』平凡社刊

役者の襲名には、現代の新しい肉体と芸を古い名前に盛り込み、ある種再生させるという意味もあるように思う。「名門の名前と芸を残す」という意義のほかに、歌舞伎の舞台全体が新しいエネルギーを取り入れるという効果もそこに生まれるはずだ。

<襲名の行事あれこれ>

先代の十一代目市川團十郎襲名は1962年。これは戦後最大の襲名といわれ、このときの行事が現在恒例となっているようだ。例えば披露興行の前に、浅草で行われるおおがかりなお練り、顔寄せ手打ち式公開、撮影会、デパートでの展覧会、様々なパーティなどである。また贔屓筋には“配り物”と呼ばれる記念の品が贈られる。扇子、風呂敷、袱紗、風呂敷、手ぬぐい等が一般的なようだ。

そして観客にとって何より楽しみなのは“口上”である。


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