初演は江戸期1747年の竹本座・人形浄瑠璃。作者は竹田出雲、並木千柳、三好松洛。なんとその翌年にはもう歌舞伎として上演されていた。源平の戦いで滅んだ平家の武将達。平知盛、平維盛、平教経が生きていたという設定から始まる。源氏の侍大将は義経。この3人を追うのだが、一方で兄・頼朝と不仲となり結局は陸奥へ逃避行。これは『勧進帳』でも描かれている。
「渡海屋(とかいや)」「大物浦(だいもつうら)」の場。平知盛(たいらのとももり)は平家屈指の戦上手の武将。だが壇ノ浦の合戦で戦死している。そのはずなのに、大物浦という地で回船業・渡海屋銀平の下で生きていた。海中に沈んだはずの安徳帝も一緒に。幽霊のなりをして義経を狙うが、見破った義経は知盛を追い詰めてしまう。安徳帝を義経にゆだね、みずから巨大な碇を身体に巻いて西海の海に再度身を投げる。
なんとも勇壮な武将の最後。戦上手と勇敢さでならした源氏の義経と平家の知盛。生まれは敵同士でも合い通じるものがあったのかもしれない。滅んだ平家の運命とともに身を投げる知盛。兄からの不信に悩む義経。その背景が、戦におのれの存在意義を見出し、全力投球させてしまうかのようだ。知盛の壮絶な最期を見届ける義経。彼の運命を我々が知っているからこそ、この場面は感動的なのだ。
「鮨屋」というユニークな場の名前。主人公は権太(ごんた)といういかにもワルそうな名前のこの男は、大和の国の下市村に古くからある鮨屋の息子。だが権太は詐欺やかたりを働き勘当されており、見習として住みこんでいるのが平維盛。彼に惚れてしまっているこの家の娘・お里。この維盛の事情を知った権太は維盛の首と彼の妻子を源氏の梶原景時に引き渡す。
だが実は勘当を解いてもらい良心を取り戻したい権太はにせの首と自分の妻子を身替りにたてたのだった。それを知らない権太の父は怒りのあまり彼を刺してしまう。最期に権太の変心を知るのだった。