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女形(おんながた)の不思議 その1 「女になる?」「女でいる?」

歌舞伎の魅力のひとつに「女形」があります。現代のほかの演劇にはなかなか見られない特徴のひとつです。女形役者はやっぱり普段からそそとしたしぐさと言葉使いなのでしょうか。

執筆者:五十川 晶子

歌舞伎の魅力のひとつに「女形」があります。現代のほかの演劇にはなかなか見られない特徴のひとつです。宝塚の最大の魅力のひとつが男役であるように、女形の役者への人気もなかなか大変なものがあります。

女形といってすぐに思いつく名前といえば、やっぱりこの人・坂東玉三郎、また、市川笑也など市川猿之助一門の若い役者をはじめ、中村雀右衛門、中村芝翫といったベテラン勢、尾上菊五郎や中村勘九郎など立役と女形の両方を「兼ねる役者」もいます。

演目によっては、市川團十郎や中村吉右衛門など本来立役の役者が女性の役を演じることもありますが、こういうときはたいてい強い、悪者で身分の高い役柄のことが多いようです。浮気な夫をとっちめる奥方・玉の井や、暴れ馬を大人しくさせる近江のお兼なんて役もあります。

女形の役者はやっぱり普段から「女性」として生活しているものなんでしょうか。その答えはイエスでありノー。先日死去した中村歌右衛門は日常生活でも言葉使い、しぐさにおいても女であろうとしたといわれます。

またやはり亡くなった尾上梅幸は、普段は野球やゴルフの好きな男性として生活しているタイプだったということです。ただ「その私が女になるのは、脚本をもらい役作りを考えるところから始まるが、やはりその瞬間は化粧である」『拍手は幕が下りてから』(尾上梅幸著 NTT出版)だそうです。

化粧、衣装、鬘などによって、「この役はどんな立場の何歳くらいのどんな女なのか」というのが、歌舞伎では分かることになっています。これはお約束のようなもので、女形に限らずちょっと頭に入れておくと非常に芝居が観易くなります。

たとえば「赤姫(あかひめ)」と呼ばれる身分の高い武家のお姫様銀の花櫛が頭にずらりと並んだ鬘に綸子(りんず)など織物の振袖、金糸銀糸の刺繍に振り下げ帯。深層の令嬢で心も澄んだ清いお姫様です。

夜の世界でのトップ人気といえば花魁(おいらん)。遊女の中でも格が高く深い教養を必要とされました。かんざしが派手につけられ伊達兵庫(だてひょうご)という飾りのついた鬘。刺繍のほどこされた打掛に前結びの俎板(まないた)帯。

一般に「片はずし」と呼ばれる鬘は、武家の奥様や御殿女中に使います。笄(こうがい)という棒のような髪飾りに髷をまきつけたシンプルな形。これに比べて下級武士の夫人は紫帽子のついた「勝山(かつやま)」と呼ばれる鬘に栗梅色や海老茶の着物に白く紋を抜いた「石持(こくもち)」という衣装が一般的。ここまでくるとかなり「地味」な感じです。

おそらく初めて歌舞伎を観る人でも、この鬘や衣装で、その役柄の大体の立場を直感的に分かるのではないかと思います。年月とともに洗い上げられ、生き残ってきたこういう風俗面での表現方法は歌舞伎の面白さのひとつでしょう。
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