第5位『ちびくろ・さんぼ』のトラバター
『Little Black Sambo』は19世紀に描かれた小さな絵本ですが、人種差別問題と絡んで90年代に議論が沸騰し一斉に図書館や店頭から消えました。サンボという言葉は蔑称だ。いや、それを蔑称にしたのが、そもそもの差別である。差別の文脈におかれた言葉はやはり不用意に手渡すべきではない。いや子どもはそんなことは無関係にサンボの小さな冒険やトラ・バターを楽しむだろう……。いろいろな意見があります。
ガイドは、どんなに愉快な本だったとしても、積極的に子どもに手渡すべきではないという立場ですが、それでも、トラに身ぐるみはがれたサンボが最後に知恵で勝利するところや、トラがぐるぐるまわってバターになってしまう(実際は「ギィ」というインド特有のすましバターです)おもしろさ、山ほどのホットケーキを食べて満たされるといったところに子どもたちが夢中になるのはとっても理解できます。
岩波書店版で読まれてきた絵本はドビアスの挿絵の原書を切り貼りしたものであり、また、ドビアスの挿絵も、ある部分でその時代の差別感覚に基づいているといわざるを得ません。今、この絵本に出会うのならば、少なくとも、作者のヘレン・バンナーマンが自分で挿絵をつけた版で見ていただければと思います。
■『ちびくろさんぼのおはなし』
さく・え:へれん・ばんなーまん
やく:なだもとまさひさ
出版社:径書房
出版年:1899/1999.6
価格:1,050円(税込)