「履く人」主体の、押し付けでない造形!
前のページの下の写真の靴を後方から眺めてみました。何気なく引かれたように見えるかかと中央部のステッチですが、これが有るのと無いのとでは、靴の表情が格段に変わってしまうのです。 |
CLEMATISの靴職人・高野圭太郎さんの作風を表すとすれば、
「靴の中に序破急がしっかりあって、しかもそれが履き手のリズムの邪魔をしない」
の一言に尽きるでしょう。皆さんご存知の通り、21世紀に入ってから紳士靴の世界観がだいぶ変わりつつあって、それまでこの領域では禁じ手だった色やデザインが巷で「もてはやされる」ようになっていますが、それらの大半が単に演出過多のドーピング状態なだけで、履き手の個性を支配し遮ってしまっているのが現実です。対照的に彼の靴は、その種の「押し付けがましい気まぐれ」とは無縁の線と面でテンポ良く構成されているので、逆に履き手のそれを控えめに、でも巧みに引き立ててくれるのです。
あるべき場所に、ごまかしの無いあるべき造形が備わってくれている前向きな安心感、とでも申したら良いのかな? 例えば上の写真を改めてご覧いただきたい。かかとの中央部に引かれた一本のステッチが、土踏まず部のくびれとかかと周り双方が持つ「うねり」を有機的に一体化させ、流麗ながらも靴全体に落ち着いた、文字通り地に足の着いた印象をもたらしているのがお解かりでしょう。また、下の写真のサドルシューズでも、サドル面の後部への流れ方は誰にでも馴染む極めてシンプルなものであると同時に、ある種の勢いも感じられ、しかもトウシェイプやかかとの丸みとも見事なまでに調和しています。
「男性が長い間愛用してくれる靴として、デザインは現代的・装飾的に出しゃばり過ぎてもいけないし、かと言って安穏と伝統にしがみ付き過ぎてもいけない。このバランスは永遠の課題です」と語る高野さんが、特に慎重になる工程は「吊り込み」。靴が平面に書いた絵ではなく、生身の人間が快適に履ける「立体」になれるか否かが、ここで完全に決まってしまうからです。これを伺えばもうお解りでしょう、そう、立体つまり「身に付ける人」に対する意識が飛び抜けて高いから、CLEMATISの靴はそれ自体の個性と履き手の個性とが呼応し「身体の一部」になれるのです。
いかん! もう3ページも使ってしまった…… 小松さんの鞄のことや、お店を持って以降の2人の心境の深化のことなど、まだまだ書きたいことは山ほどあるので、いったんここでペンを置きましょう。この続きは次回までご期待あれ!
【店データ】
■CLEMATIS(クレマチス)
所在地:〒104-0061 東京都中央区銀座1-27-12 銀座渡辺ビル2F
地図: Yahoo!地図情報
Tel/Fax:03-3563-8200
営業時間:12:00~20:00 火曜定休
交通:東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅(11番出口)・新富町駅(2番出口)より共に徒歩6分。 都営地下鉄浅草線宝町駅(A1出口)より徒歩6分。東京メトロ銀座線銀座駅・京橋駅も利用可能(共に徒歩10分)
HP: CLEMATIS GINZA
シューズ価格:\163,000~(税込み。製法・モデル・オプション等で変動します)
バッグ価格:\178,500~(税込み。モデル・オプション等で変動します)
納期:シューズ・バッグ共に約8ヶ月
サドル部に非常に貴重なカバの革を用いたサドルシューズです。カバの革はスエードと似た感触で、お手入れもそれと同様でOKとのこと。何気ないのですがサドルの線の流れ方は、驚くほど秀逸です。これと同じ仕様で価格は\257,250、シューツリーは別売りで\17,000(いずれも税込み)。 |