全体のバランスで変える「目付け」
ジオグラフィーの靴でドレス系のものは、ウェルト部の仕上げが通常「細目付け」となります。「切り取り線」みたいなものはありますが、「出し縫い」の糸自体は見えないのがポイント! |
前ページに採り上げた件を、ジオグラフィーの靴を取り扱う東京・原宿にある「ジオグラフィー リビング」の石原店長のもとへ取材にお伺いしたところ、それとは全く別の、最近このブランドが凝っているディテールについても、同時にご紹介いただきました。それは「目付け」。この言葉を聴いてどの部分かがすぐに解ってしまった方は相当な靴好きでして、そうでない方のために、まずは簡単な解説から始めさせて下さい。
ジオグラフィーの主要な靴のように、グッドイヤー・ウェルテッド製法やハンドソーン・ウェルテッド製法で製造される靴には、アッパーとアウトソールとの境界線に、靴の外周に沿うような形で、その名もずばりウェルト(細革)と呼ばれるパーツが必ず付きます。これとアッパー・インソール・ライニングが靴の中側で「掬い縫い」される一方、これとアウトソールが靴の外側で「出し縫い」されることで、アッパーとアウトソールが間接的に繋がる訳で、見た目はヒョロいですがウェルトは靴の構造上、極めて重要な意味を持つパーツなのです。「目付け」とは、この「出し縫い」でウェルトに表出する縫い糸を目立たなくすべく、特殊な焼きゴテ等でその表面に細かい凸凹を付ける、一種の仕上げ加工のことを指します。
ここのブランドの靴の場合、ドレス系の靴には上の写真のような「細目付け」と呼ばれる、凸凹のピッチが細かい仕上げを通常は施します。ただし、一般的な「細目付け」はそれを施しても「出し縫い」の糸がはっきり表出しているのですが、もう一度上の写真をご覧いただきたい。何か「切り取り線」みたいなものはウェルト中央部にグルッとありますが、糸自体は見えませんよね?
ジオグラフィーの「細目付け」は、用いる出し縫いマシンにある工夫がしてあって、このような演出が可能なのだそうです。具体的には、「出し縫い」直前の工程に一種のメスみたいなものが設置されていて、それでウェルトの断面を僅かに開削した直後に出し縫いが行われるため、糸が「切り取り線」の中に隠せてしまうとのこと。聞くところによるとこの技術、日本の靴メーカーの得意技だそうで、そのような小技がさりげなく盛り込まれているのを知ると、持ち主も更に嬉しくなって履いてしまいますなぁ…… 因みにカントリー系の靴の場合は、下の写真のような「出し縫い」の糸が表出し凸凹のピッチも広い「粗目付け」が標準になりますが、これはこれで迫力があってカッコイイ!
カントリー系の靴やアメリカを意識したモデルでは、ウェルトの仕上げには通常、ご覧のような「粗目付け」が採用されます。出し縫いの糸とのコントラストで、頑丈さや男らしさを強調します。 |
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