梅雨時の強い味方!
雨や雪から靴を守るのが撥水剤の一番の役割です。様々なものが売られていますが、靴の用途で使い分けるのが、最も効果的です。 |
屋外も屋内も鬱陶しい梅雨時です。21世紀に入ってから、初夏から初秋にかけての雨の降り方が妙に極端になっていると思いませんか? 別に台風でもないのに、東京でも急な大雨で道が冠水してしまうこと、ありますよね。これもやはり地球温暖化の影響なのでしょうか?
こんな雨天時の外出に不可欠なのが、靴の撥水・防水加工です。靴の中に雨が全く入ってこないと言うわけでもありませんが、これをするとしないとでは入ってくる度合いは確かに違いますから、梅雨時のシューケア用品売り場ではスプレーを中心とした撥水・防水剤は、間違いなく一番の売れ筋です。
ただ、「どれが一番性能がいいのか見当が付かない」「どのようなものを買ったらいいのか解りにくい」という声も暫し耳にします。そこで今回は、この撥水・防水剤について用途別(それは事実上、原材料別でもあります)に、ちょっと整理してみることにしました。
なお、「撥水」と「防水」は暫し混用されますが、厳密には両者は意味が異なります。
撥水:皮革や生地に水より表面張力の遥かに小さい溶剤を付着させることで、そうしない時に比べ表面張力の差を大きくし、「通気性は保持したまま、外部の水を弾かせる」加工。
防水:皮革や生地に密閉効果の高いゴムや溶剤などを付着させることで、「通気性を犠牲としても、外部・内部双方の水を完全に通さなくする」加工。ゴム引きコートがその代表例です。
今回は実際のメカニズムを重視し、「防水」と謳われている商品についても、必要に応じて「撥水」の言葉を用いさせていただきます。
普段使いの靴に最適なフッ素樹脂系!
通常のドレスシューズには、このようなフッ素樹脂系の撥水スプレーがおすすめ。左:ウォーリー プロテクター3×3 \1,575。R&D 右:コロニル ナノプロ \2,100。エス・アイザックス商会。 |
靴の撥水剤のうちで今日一番ポピュラーなのが、上の写真のような「フッ素樹脂」を主原料に用いた撥水スプレーでしょう。スムースレザーのみならずスエードやヌバックなどの起毛系のもの、さらには綿や麻など布地のものにも使えるといった汎用性の広さもさることながら、何よりスプレー一拭きで手軽に効果を実感できるのが、その人気の秘密です。
また撥水性のみならず、撥油性や防塵・防汚性にも優れているのが特徴で、フライパンなどでよく見かけるアメリカ・デュポン社の「テフロン加工」もこれと似た原理でフッ素樹脂を用いたものだと申し上げれば、その効果はご理解いただけるかな?
「ウォーリー プロテクター3×3」は、塗布した後も素材感や色調がほとんど変わらないことで以前から定評のある、この分野での代表的商品です。一方「コロニル ナノプロ」は、文字通り昨今技術革新の甚だしいナノテクノロジーを応用し、水との「表面張力の差」をより大きくしようとした撥水スプレー。
いずれの製品も、ちょっと大切にしているドレスシューズを雨天で履かざるを得ない時や「帰り道でひょっとしたらにわか雨に遭うかも?」のような場合など、普段使いの靴の撥水剤としては文句なしの性能を発揮してくれます。
実際に履く30分から1時間前に靴全体にまんべんなくスプレーするのが、性能を最大限に発揮させるためのコツです。塗布してから1・2分すれば表面が乾いてきますので、跡が気になるようでしたらスムースレザーの場合は乾いた布で軽く拭き、起毛系のものは軽くブラッシングして下さい。
このフッ素樹脂を用いたものの唯一の欠点は、撥水効果を最大限に出せるのが塗布後1~2日程度と他のものに比べ短い点ですが、その分単純に「雨に遭うもしくは雨に遭いそうな外出前に、都度スプレーするもの」と覚えておけば、十分お守り役に徹してくれますよ!
アウトドアシューズの性能を上げるワックス系!
オイルドレザーを用いたアウトドア系の靴には、このようなワックス系の撥水・防水剤が一番頼れます。左:キィウイ ウェットプルーフ \900。日本サラ・リー。 右:ウォーリー ヒマラヤワックス \1,575。R&D |
オイルドレザーを用いたアウトドア系のシューズ・ブーツを本来用いる環境は、泥道や川辺など通常の靴に比べ遥かに過酷です。「水を弾かない」ことが命の危険につながる場合もあり、当然ながら撥水・防水性能は大変強力なものが求められます。このような靴には昔ながらの「ワックス=蝋」を主原料に用いた撥水・防水剤での処理が、未だに最適解のようです。
「キィウイ ウェットプルーフ」は、靴用の油性ワックスでは世界的なシェアを誇る同社らしい商品で、もはや古典的名作と申して構わないでしょう。「ウォーリー ヒマラヤワックス」はひたすらタフな靴が求められる林業関係者や登山家にも愛用者が多い、スプレー式の撥水・防水剤。
どちらもワックスで靴の表面を覆うことで耐水性を増すアプローチですので、どちらかと言えば「撥水」と言うよりは「防水」的要素が強く、当然ながらその効果も今回採り上げるものの中では最強。速効性・持続性共に優れ、効果も1ヶ月は軽く持ちます。
何せワックスですので多少の光沢が出ますし、油分も含まれているので革質を軟化させずに保革できる効果も有します。が、如何せん成分が強く、塗布して磨き上げると素材感が平板な雰囲気に変わり、色調もやや濃くなってしまうのが最大の難点です。
なので、これは街用のドレスシューズや起毛系のものには、正直不向き。あくまで濃色のオイルドレザーの靴とかマットな素材感を持つ黒の革靴など、タフな環境で酷使され素材感が多少変化しても構わないようなものに用いることをお勧めいたします。
「雨靴」に重宝なスコッチガード!
街用でも予め雨とか雪とかに履くことを前提とした靴ならば、シリコーン樹脂系のこの撥水スプレーがお勧めです。左:スコッチガード 革靴用(濃色用)防水スプレー \1,312。住友スリーエム。 右:ご参考までに、フッ素樹脂を用いていた頃の同製品。 |
撥水加工の世界的ブランドとして、特に衣服やクリーニングの分野では大変有名なアメリカ・3M社の「スコッチガード加工」。以前は他社では主流となっているフッ素樹脂を原材料に用いていましたが、同社が用いていた一部の原材料に環境破壊を引き起こす恐れのある要素が発見されたため、皮革用に関しては2000末頃年から「シリコーン樹脂」に原材料を変更したもので販売されています(衣類・布製品用に関しては現在、シリコーン樹脂と「新開発したフッ素樹脂」双方の原材料を用いています)。
このシリコーン樹脂を用いた撥水剤は、フッ素樹脂のものが登場する前から皮革の世界ではお馴染みのものでしたので、原材料そのものは格段に進化しているものの、言わば原点回帰といったところでしょうか。
原材料がフッ素樹脂だった頃から、この商品は他の撥水剤とは大きく異なる特徴がありました。ズバリ、靴に付いた汚れが落とせるのです。例えば雨に打たれて履きジワの辺りに生じてしまいがちな白い「塩吹き」も、これで簡単に落とせます。
でも、汚れが落とせるってことは…… 今まで付いていた靴クリームの類も同時に落としてしまうことも意味しますよね! なのでこの商品は、用いるのにベストな手順も、他の商品とは全く異なります。
雨や雪に遭って汚れてしまった靴をゆっくり乾燥させた後、一種のクリーナーだと思ってこれを靴全体にまんべんなくスプレーし、乾いた布で汚れを取り除いたら、通常のケアをしっかり行って下さい。撥水効果が最大限になるのが塗布の約8時間後と遅めですし、含有成分によりある程度の栄養も入るので、つまり、お手入れの最後ではなく、最初に用いるべき商品なのです。
持続性は「フッ素樹脂系」と「ワックス系」の中間くらい、色調も気持ち濃くなり起毛系のものには使えませんので、これは例えば、雨用と割り切っているスムースレザーのドレスシューズを、しっかりいたわってあげる際に最適な撥水剤と言えるかもしれません。
日頃のケアが何より肝心
撥水剤を特段用いなくても、日頃のケアがしっかり行われていれば、ご覧のように水をそれなりに弾いてくれるものなのです。 |
いかがでしたでしょうか?巷には靴用に様々な撥水・防水剤が売られていますが、どんな靴に用いたいのかが明確であれば、それほど迷うことはないかと思います。最後に、これらを用いる際の注意点を幾つか記しておきましょうか。
注意点その1:撥水・防水処理はあくまで脇役。「お手入れの中心」ではない!
撥水・防水剤が十分に効果を発揮するための必須条件は、靴の皮革に必要十分な水分と油分が行き渡っていること、これに尽きます。日頃のケアをしっかり行わないまま、それこそ毎日欠かさず撥水スプレーのみを用いて、それがシューケアなのだと思われている方が、何と大変恥ずかしいことに日本の靴業界・靴用品業界の中には大勢いらっしゃるのですが、それは大きな勘違いです。
お天気は全く逆ですが、肌のコンディションが良くないまま「日焼け止め」のみを塗りまくるのと一緒で、全く意味をなさないどころか、革にかえってダメージを与えてしまいます。小生が今まで「シューケア技術向上講座」でこの類の製品を敢えて全く採り上げて来なかったのも、「日頃のシューケアこそ一番の雨対策」であることを、皆さんに知ってもらいたかったからです。
注意点その2:靴の汚れや埃を落とした上で用いる!
クリーナー的要素がある「スコッチガード」はともかく、その他の撥水・防水剤は汚れや埃をブラシなどで事前にある程度落とした上で用いましょう。状況によっては、撥水・防水剤によってそれらがこびり付いてしまう場合もあり得るからです。また、雨などで既に大分湿ってしまった靴には、これらは効果がありません。撥水・防水剤は「水に濡れてしまう前に用いる」のが、当然ながら大原則です。
注意点その3:特にスプレー式のものは、塗布する周辺に注意!
原材料の別に関わらず、できる限り屋外の通気性の良い場所でスプレーして下さい。撥水剤によっては塗布した場所の床面が滑り易くなりますので、それが掛かりそうな床面に新聞紙などを敷くなどの予防も必要でしょう。また、日頃コンタクトレンズを用いている人は、それに撥水・防水剤の成分がこびり付いてしまうと、取り除くことが難しいものもあるようなので、特に風向きに要注意ですよ。
雨がしとしと降り続くと、心もふと沈みがちになってしまいます。今回採り上げた撥水・防水剤を上手に活用していただき、お天気が悪くても足元だけはジメジメさせず、屋外で颯爽と行動できる手助けになっていただけましたら幸いです。
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