男の靴・スニーカー/ドレスシューズ

謙虚でたくましい、EMORIの靴

今回は靴職人・江守大蔵氏が一人で作り上げるEMORIの靴を採り上げます。履き手が本来持つ雰囲気に逆らうことなく自然に溶け込んでしまう彼の靴には、他の誂え靴とはまた異なる重層的な魅力が備わっています。

飯野 高広

執筆者:飯野 高広

靴ガイド

「完璧」である以上に「自然」

プレーントウ
とある顧客に納められ、順調に履かれているEMORIのプレーントウです。見栄を張ったところが微塵もなく、素直でかつたくましく見えるところが、これまでの日本の誂え靴とは大きく異なる点です。


読者の皆さんは「誂えた靴」とか「ビスポークシューズ」といった言葉から、どのような靴を想像しますか? 大抵の方は恐らく、容姿が凛々しくかつ洗練されていて、それこそシワ一つないバリっとしたスーツが似合う、完璧なドレスシューズをご想像なされるでしょう。

もちろんそれは、決して間違いではありません。が、それが誂え靴の「あるべき像」として果たして唯一絶対的なものなのでしょうか? 今回は、そのような疑問を少しでも感じかつ考えていた方なら必ず共感していただける、EMORIのビスポークシューズを採り上げ、「誂える」ことの現代的な意味を少々深く探っていこうと思います。


謙虚な姿勢が輪郭にあらわれた靴

底付け
現在作成中の靴の底面です。丁寧な出し縫いに、江守氏の人柄が表れます。ちなみにEMORIの靴は全工程、この写真のアトリエで江守大蔵氏一人の手で作られます。


EMORIを主宰する江守大蔵氏は1972年生まれ。大学卒業後一旦は靴にもアパレルにも全く関係ない、ごくごく普通のビジネスマンを数年経験しますが、靴を作ることへの思いが断ち切れずまず婦人靴工場に半年間勤務。続いて靴職人養成学校として有名な東京都立足立技術専門学校台東分校製靴科を修了した後、日本で手縫いの紳士靴製造の灯火を守ってくれた代表的な工房に独立前の5年間勤務したという、普通の職人さんとは少々異なる経歴の持ち主です。

その工房で主に担当していた底付けが、やはり一番落ち着いてできる工程だというEMORIの靴は、その発注から完成まで以下のようなプロセスを踏んでゆきます。
  1. 顧客と共に靴の全体のデザインや細かい仕様を考える。
  2. 立った状態ならびに座った状態の双方で顧客の足を採寸し、その特徴を把握する。
  3. 1.2.をもとに木型を削る。
  4. 本製作用とは別の革で「仮縫い用の靴」を作製し、顧客にデザインや履き心地をチェックしてもらう。
  5. 4.の結果木型やデザインを微修正し、必要な場合はもう一度「仮縫い用の靴」を作製、完成後顧客に再度チェックしてもらう。
  6. 木型・デザイン双方に問題がなくなった時点で、「完成版の靴」を作製する。
  7. 製品が完成し、顧客に納品する。
因みに「仮縫い用の靴」は原則片足、大きいほうの足のみで作製しますが、足の形状により両足作製となる場合もあります(別途追加料金が掛かります)。いずれにせよ、完成版とは別の革で仮縫いを行い、フィッティングのみならずデザインもチェックしてもらうのは、江守氏の「顧客が好きになる靴を、顧客と一緒に作り上げたい」という、大変真摯な姿勢のあらわれでしょう。もちろん「完成版の靴」用の革には、フレンチカーフやイタリアのバケッタレザーなど、高品質なものを数多く取り揃えています。


次のページでは、EMORIの靴が持つ唯一無比の特徴をご紹介!
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