サドルシューズを深堀

甲に馬の鞍状の革を載せそこに鳩目を付けたサドルシューズを採り上げます。コンビシューズとしてお馴染みですが、黒や茶の単色のものならば、ビジネスにも十分使えます。

【目次】  

サドルシューズはデザインのみならず、構造も独特です!

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サドルシューズって、そのデザインばかりに焦点が当たりがちですが、外羽根式・内羽根式どちらにも属さないと言う意味で、構造面でも大変興味深い靴なのです。


「サドルオックスフォード(Saddle Oxford)」なる正式な名称を持つものの、日本では略称の方が圧倒的に用いられているサドルシューズ。簡単に申せば、甲に文字通りサドル、つまり馬の鞍状に独立した革を上から下までグルッと載せ、そこに鳩目を付けた状態の紐靴のことです。

サドルの上辺や下辺それに鳩目周りにブローギングを付けることで、その形状を強調する演出もしばし見られます。また、「バックステイ」とか「市革」と呼ばれる踵部最後端の縫い目を覆うパーツを、同様に馬の鞍状にしているものも多いですね。

実はこの「独立した革を上から下までグルッと載せる」ことに、サドルシューズの大きな存在意義があります。羽根の下端が閉じており全開はできないので、一見内羽根式のように見えるのですが、甲より前に鳩目の部分が潜り込んではおらずそこが乗っかっている構造は、逆に外羽根式の典型。

そう、つまり内羽根式・外羽根式どちらにも属さない・属せない紐靴なのです。デザインそのものは極めて単純なのですが、この構造上の独自性こそ他の紐靴と使われ方が若干異なってきた原因かもしれません。
 

若々しさが前面に出るアメリカ式サドル

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まだアメリカ製造を諦めていなかった頃のコールハーンが作った、紺とソーテルベージュのコンビサドルです。レンガ色のスポンジソールで健全なカジュアル感がいっそう際立つ、かつてのアメリカ靴らしい一足です。


サドルシューズといって、皆さんが真っ先に思い浮かべるのが俗に「コンビサドル」と呼ばれる2色使いのもので、茶系*黒のような渋い配色よりも、むしろこのようなソーテルベージュ色の本体に茶や黒・紺などのサドルが乗った明るめの配色のものでしょう。とりわけゴルフシューズのデザインとして、様々にアレンジされながらも未だに根強い人気を誇っているので、グリーン上で無意識に履かれていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?

サドルシューズそのものは、19世紀終わり頃にイギリスで創造されたものです。後にアメリカに伝わった際、前述した独自性がより強調されていったようで、ティーンエイジャー向けの学生靴や、ダンスやゴルフそれにボーリング用のスポーツシューズのデザインとして、特にこのようなベージュ系*濃色コンビの形で第一次大戦前後から急速に広まってゆきました。

因みに学生靴としては男性以上に女性に圧倒的な人気を博していたようで、1920年代から50年代のアメリカの女子学生を撮った写真などでは、足元で驚くほど沢山お目に掛かれます。確かにソーテルベージュ色を本体にしたこのデザインならば、他の靴に比べ可愛らしい表情になりますよね。

そのような活動的な起源を背景に持つ靴だからなのか、底部は革製ではなく、俗に「アンツーカーソール」とか「「レンガソール」と呼ばれる、ゴムやスポンジでできた赤茶色のものが主流。たとえレザーソールだったとしても底が二重のダブルソールだったり、コバ周りを丸く削るなど、アッパーの個性に合わせて一工夫されているのも、このアメリカ系サドルシューズの一大特徴です。
 

大人しくも颯爽としたイギリス式サドル

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ロイドフットウェアの作品は、清潔感溢れる正にイギリス式サドルシューズのお手本。永年の定番であるのも頷けます。カーフ・スムースレザーで、黒とタン(薄茶)の2色を用意。サイズ5ハーフ~9。


サドルシューズというと、とかくアメリカ式のスタイルのものを思い出しがちですが、前述したとおりその起源は他の紐靴と同様、イギリスにあります。19世紀末期に創造され、20世紀初めにはチャーチ(Church’s)などから早くも既製品が登場していたようですが、これらが大西洋を渡って、アメリカで独自の進化を遂げていったわけです。

アメリカ式に比べると表情が穏やかかつ研ぎ澄まされていて、サドル部もあまり強調され過ぎていないのがイギリス式サドルシューズの特徴と言えましょう。色のコントラストが鮮やかなコンビシューズもないわけではありませんが、本体とサドル部が同色・同素材のものやせいぜい同色・異素材のものが多く、この辺りは元祖ゆえのある種の余裕を感じさせてくれます。また底部も通常のドレスシューズと同様、シングルレザーソール&ヒール仕様のものがほとんどです。

上の写真に見るロイドフットウェアの作品は、そんなイギリス式サドルシューズのお手本と呼ぶに相応しいものです。アッパーの素材や色などは時代により若干変化していますが、基本的なデザインは開店以来変わっていない、真の定番商品。

他のドレスシューズに比べつま先を僅かに垂直気味に立ち上がらせた木型を用いることで、颯爽とした清潔感、それに温和な上品さを高次元に融合させた名靴です。これならカジュアルというよりも少なくともきちんとしたジャケットと、いや、さらにしっかりとダークスーツ姿にだって合わせたくなります!
 

サドルシューズは溌剌さを意識しながら履きたい!

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サドルシューズ特にアメリカ式のものは、用いられた歴史的経緯を素直に捉えてあげるのが正解。スポーティで若々しいアメリカンドラッド的な服と合わせるのが、その真価を一番発揮できるでしょう。


前述した通り、本体とサドル部に同色・同素材を用いた黒や茶系のスムースレザー系のもので、加えてレザーソール仕様であるならば、ダークスーツと合わせても別に問題ありません。この場合はアメリカ式・イギリス式いずれにせよ、ちょうどプレーントウと似た感覚で用いていただいて構わないかと思います。

ただし、この靴が持つ独特の表情ゆえ、ストライプや柄物のスーツでは全体的に釣り合いが取りにくくなりがちで、これはちょっと上級者向け。濃紺やチャコールグレイの無地のものを控えめに合わせ、靴・スーツ双方を引き立てる作戦が無難でしょう。

一方同色・異素材もしくは2色使いのコンビサドルとなると、これは明らかにカジュアル、少なくともお堅いビジネス向きではなくなります。となると合わせたい服は、自然とその歴史的経緯を踏まえたものに収れんしてくるわけです。

例えば学生履きだったアメリカ式のコンビサドルは、ボタンダウンシャツやチルデンセーター、ベージュ系のコットンパンツやホワイトジーンズなど当時の学生に人気だった服との相性が、悪いはずないのです。上の写真の紺色のようにサドル部の色を拾って服の色を合わせてゆけば、コーディネートも案外簡単です。

どちらにせよサドルシューズを履くと、紐靴ながらも足元に独自の溌剌さを演出できるのは間違いありません。いつもの紐靴ではどうも重苦しいし、かといってモンクストラップ やスリッポンではなにか心もとない……そんな時に是非とも活用したい一足です。

ここ1、2年、いわゆるアングロサクソン的な伝統的なスタイルに対して「色気はあるけど色味に乏しい」モードの側からのアプローチが活発になる中で、どうやらこのサドルシューズも再評価の対象となっているようです。が、そのような一時の流行に堕して履かれる靴では断じてなく、歴史に裏付けられた無二の表現力を持った靴であることを、どうか忘れずに履いていただきたいです。

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